2026年1月号「プラネタリウムの全天に リアルタイム動画のオーロラを」

正会員の横山明日香です。
ちょうど一年前、2024年末から2025年の初めにかけて、家族旅行でカナダにオーロラを見に行ってきました。
その時に撮影したオーロラの映像をプラネタリウムに投影する機会がありましたので、
そのことについて書いてみたいと思います。

1タイトル

私自身にとってはこの時は7度目のオーロラ旅行でしたが、独身時代はひとり車中泊で撮影の旅をしていました。
今回はオーロラを見たいという15歳の息子の希望で、かつて通っていた懐かしの地カナダ・ユーコン準州とノースウエスト準州に行くことにしました。

2024年の秋、旅の計画中の段階で、翌年2月に札幌市青少年科学館の関係者向けの行事でプラネタリウムを使わせていただけることがわかっていましたので、ここに自分で撮影したオーロラの映像を映してみたいと思いました。

〈全天にリアルタイム動画のオーロラを〉

プラネタリウムというドーム状の巨大なスクリーンに、タイムラプスではない(早送りではない)実際のスピードのオーロラを映してみたいというのは数年前からの私の夢でした。
これには最低でも1秒間に24コマを撮影することが必要ですが、夜の自然現象であるオーロラの撮影としては非常に難しい問題でした。

プラネタリウムの全天投影には、円周魚眼レンズで撮影したまん丸の映像があれば良いということはわかっていました。
過去に、ISO10万程度でF1.8の円周魚眼レンズを使用して動画撮影をしたことがあります。
写真撮影時には魚眼レンズの円周が写野に収まっているのですが、動画撮影となると画面が16:9にクロップされてしまうため、円周魚眼の写野の上下がカットされてしまいます。この動画をプラネタリウムで試写したところ、画像の欠けがかなり気になる状態で、別の方法を探さなければなりませんでした。

2タテヨコ比説明

そして2024年の秋ごろ、「プラネタリウムの全天に、リアルタイム動画のオーロラを映すための撮影方法はないでしょうか」と色々な方にお尋ねしていたのですが、その中に、できそうだという返答をくださった方が現れ、機材をお借りすることとなり、夢が現実へと進み始めることになりました。

〈アナモフィック撮影〉

私にとって全く初耳の「アナモフィック撮影」という機能が夢の扉の鍵となりました。
アナモフィック(アナモルフィックとも)とは、お借りしたカメラに搭載されていた動画撮影機能で、アナモフィック4Kモード時にはタテヨコ比が4:3となり、通常の16:9の4K撮影時と画素数はほぼ同じながら、より円周の直径が大きなサイズで撮影が可能になります。
このカメラに、視野角250度という特別な円周魚眼レンズを使い、これによって欠けのない全天映像を撮影できることになりました。

3アナモフィック説明

実際の撮影現場では、泡式の水準器を使ってカメラを真上に向けました。
ピントは合わせ済み。フレームレートは24fps(1秒間に24枚)でシャッタースピードは1/20。
ISO感度がどの程度が適切かの判断が難しく、やや失敗があり今後の課題となりました。
撮影のチャンスは、少しでも明るい状況を狙って、満月期となる旅の後半に期待を賭けました。

実際には月のない晩のオーロラも撮影することができました。
2025年元旦の磁気嵐の晩に強いオーロラ(日本でも観測されました)が出現。-40度近い低温下でカメラ自体が冷え切ってしまい、最後にはバッテリーを交換しても動作しない事態となりました。
撮影できたのは1分少々と短時間でしたが、動画として収められたことはよかったです。

〈なつかしの地、恩人との再会〉

旅自体は、17年ぶりのホワイトホース、アラスカハイウェイ、クルアニレイク、そして前回は約1200kmをレンタカーで走破した、未舗装かつガソリンスタンドが700kmも存在しない区間を含む原野の中のハイウェイを飛行機で飛び越え、イヌヴィクでは前回お世話になった命の恩人との再会を果たすことができました。
前回は凍った川の上を走って向かった北極海に面する村へは、通年走行できる陸上の道が開通しており、年月の経過も感じる旅となりました。
この17年間に、私自身撮影の空白期間も長く、もう二度とこの地に戻ることはできないだろうと思っていた時期もありましたので、感慨もひとしおでした。
息子にとっては初めての外国で、日本とは全く異なる極寒・極夜の自然環境や、その中での人々の暮らしを垣間見る体験を楽しんでくれたことは、何よりの喜びでした。

4旅

その滞在も残り少なくなった晩、北極海からの帰り道に絶好の動画撮影の機会が訪れました。
当初オーロラが淡かったためカメラは静止画として連続撮影をしていたのですが、徐々に降り注ぐ光に力がみなぎり、動画撮影に耐えうる激しいうねりと輝きを見せ始めました。
カメラの動画スタートボタンを押し「カメラを動画撮影にしたよ」と息子に伝える自分の声が収録されているのですが、息子は動画撮影=音声が収録されるということに気づいていませんでした。

というわけで、事前の打ち合わせも仕込みも全くなしの親子の会話が全天に舞うオーロラと同時に収録されています。
神秘的なオーロラの姿と、どこにでもいる親子の会話によって、観客の方々には臨場感のある擬似オーロラ体験ができたのではないかと思っています。

(撮影時の状況・iPhone撮影)
5撮影状況

〈動画編集にとりかかる〉

旅から帰国し日常生活に戻るとともに、動画編集にとりかかりました。
映像のノイズの処理と、できるだけ実際に近いオーロラの色調を表現するために、動画編集ソフトはダビンチリゾルブの有料版を選択しました。

2月の関係者向けの投影は粗い編集ではありましたが、プラネタリウムに映し出される全天映像は、実際の撮影地が完璧に(気温以外)再現されることに、誰より自分が一番驚き感激してしまいました。

〈一般のお客様向けとして投影〉

2月の投影では、ノイズの強さや解像度の不足などの問題が残されていましたが、12月のプラネタリウムイベントの一つとして、今度は一般のお客様向けに投影するという機会をいただくことになり、一から編集をやり直すことにしました。
全天動画部分のノイズ低減には、動画からすべてjpgの静止画として書き出し、Photoshopでの画像処理を施した上で動画に戻すという手法をとりました。約12分間の動画から切り離された静止画像はおよそ17000枚となり、その全てに処理を適用することに非常に時間がかかりました。また、編集作業中にプラネタリウムで2度の試写をしていただき、ノイズの状況や映像の明るさのチェックをしました。

当初は、一つの処理のために数時間の待ち時間が発生することがあり、なかなか進捗が目に見えず苦しみましたが、徐々に編集作業に目処がつき気持ちも楽になっていきました。
元々、映画もテレビもネットの動画もあまり見ない私にとって、物語としての場面展開や、観客に伝わりやすくするための助言も必要で、本番二日前まで編集作業にかかっていました。

当日の流れは、オーロラ撮影で実際に使用した防寒服を着て登場し、オーロラの原理や昨年北海道でも観測された低緯度オーロラの解説をしてからの番組スタートとし、映像と共に生ナレーションを入れ、最後にはオーロラ全天動画を観客が自由に写真撮影できる時間を用意しました。
来場客の方々も実際のオーロラの撮影のドキドキや楽しさを擬似的に体験できたようでした。
2日間にわたる2度の投影は200席がほぼ満席となり、大成功と言って良かったのではないでしょうか。

私が10歳の時に開館した科学館、その中でもプラネタリウムは特別に大好きな施設で、年に何度かの訪問が楽しみでたまりませんでしたが、まさか将来自分の映像を映すとは、想像もしないことでした。
この機会を作ってくださった札幌市青少年科学館の皆様、そして機材から編集作業まで大変多くの方々に協力をいただきましたことについて、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

いずれは他館でも使っていただけないだろうかと思ったり、次回作を作ってみたいと思ったり、しばらくは夢心地で過ごしています。

著者:横山明日香(よこやまあすか)
札幌市在住
所属 日本星景写真協会、札幌天文同好会、東亜天文学会
Website http://swingby-i.com
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