2022年1月号「私の星景写真」

星との出会い

私が初めて星を意識して見たのは確か小学3年くらいのペルセウス座流星群の時だったと思います。新聞の記事を見て、極大日当日、べったり雲の張り付いた空を見上げていた記憶が残っています。当時は流れ星が隕石のごとく地上まで降り注ぐと思っていたのです。
結局星はその時には見てはいません。
その後特に星を意識して見たという記憶はあまり残っていません。家を一歩出れば星は満天のごとく輝いていて、あまりにも身近だったからかもしれません。

転機が訪れたのは中学一年の時でした。
「荒、いいの見せてやっがら」
学校での休み時間、そういって友人が自席に1枚の写真を差し出しました。
そこには黒い背景に丸が7つ。並びからすると北斗七星のようです。

「なじょした?これ」
「撮ったんだべや、俺が。」
「今度撮りさいがねが?」
「おう、いぐべし!」

と、まぁこんな感じではなかったかと思いますが、小学4年から写真を撮りだし、中学には念願の一眼を手に入れた写真少年はあっという間に天体写真にのめりこんでいきました(始めて間もなく、驚きを以て見た北斗七星は単なるピンボケ写真だったということが判明)。
あ、ちなみに舞台は古川市(現大崎市)という宮城県北部の田舎町です。
最後のダメ押しは中学二年の時でした。町で募集した岩手県八幡平でのキャンプに参加したときのこと。森の中から見上げた天の川を見たとき、いつも見慣れている筈の星座が見つからなかったのです。星を見始めて1年以上たち、星座早見盤などはほぼ使わなくなっていましたが、白鳥もカシオペアも真っ白に輝く天の川に埋もれて森の中からの視界では見分けがつかなくなっていたのです。

「うぉー、すげぇ!」
一緒に参加した星好きの友達と歓声を上げたのを今でも覚えています。40年近くたった今もなお、人生最高の星空です。
その後バイトして貯めた金で中3の秋に念願の望遠鏡を手に入れ、高1にはハレーすい星を半年間追い続けたりと、どんどん深みにはまっていきましたが、一番やりたかった天体写真はどうにも思うようにいかず、雑誌の入選作を眺めるたびに、自分の技量では無理かなーと思い始め、とうとう進学を機に中断してしまいます。
それでも何となく星を見ることだけは思い出したようにしていて96年の百武と翌年のヘールボップ、2001年のしし座流星群だけは見ることができました。

中断前夜。86年冬、高校生のとき千畳敷にて。

再開前夜。戯れにとったオリオン。2011年秋。

天体写真の再開と星景写真との出会い

そうした長い中断の後、2012年の金環日食を機にまた天文雑誌を読むようになりました。
驚いたのは撮影機材の進化です。学生時代なら最優秀を取れそうな作品が当たり前のように撮られていて、機材も普段自分が使っているようなデジカメなのですから。結局いろいろ情報を集めたりして本格的な再開は2015年頃からとなります。2017年には念願のフルサイズ改造機を手に入れて完全に沼にはまり込んだのでした。そんな折、たまたま友人からサムヤンの14mmを借りることができ、そのレンズが映し出す世界にすっかり虜になってしまいました。当時は星雲星団の撮影ばかりで望遠系しか手持ちがなく、広角は20mmしかありませんでしたが、家族を説き伏せて暮れにタムロンのSP15-30mmを手に入れることができました。以来、EOS6Dとタムロンが唯一の星景写真の相棒です。

旅と星空

私は子供のころから旅が大好きで最初の一人旅は小学二年の時でした。高校までは列車で、それからバイク、車と手段は変わりましたが50を過ぎてなお北から南まで飛び回っています。星景写真を撮るようになってからは旅撮りもよくするようになりました。
初めてみる風景と星空の取り合わせは旅の楽しさを何倍にも増幅してくれます。
時には家族を宿に残して自分は宿代だけ払って野宿なんてことも。

岡山県牛窓にてペルセ群撮影中

愛媛県宇和海にて

なかなか天気とか宿泊地との兼ね合いでそうそうチャンスがあるわけではないですが、それだけに良い作品が撮れたときの嬉しさは格別なものがあります。

十勝にて 防風林落月

星が取り持つ縁

近年、SNSのおかげもあって、全国に星仲間がたくさんできました。旅に出たときは状況が許せば親しい星友に連絡を取って食事をしたり星を見たりとオフの交流も楽しんでいます。特に星景仲間と会う機会が多く、伊豆での撮影会や東京での写真展参加など機会を見つけては楽しんでいます。東京の写真展では打ち上げで20人近くいる中、たまたま目の前に座った参加者が、なんと30年前に一緒にペンションでひと夏バイトをした仲間だったという、そんな奇跡的な再会もありました。お互い星を続けてきたからこその縁かなと思っています。

御杖高原にてオフ会での一コマ(山口千宗氏撮影)

はてさて、この先どんな出会いが待っているのでしょう。そんなことも大きな楽しみの一つです。

私の撮影スタイル

私は星を見るのも撮るのも大好きです。太陽、月、惑星は見るだけですが、夜空は星景はもちろんDSO(Deep Sky Object—星雲星団など太陽系外の天体の総称)の直焦点撮影なども大好きです。したがって星を撮るのは新月期がやはり多く、星野写真を撮りながら星景を、ということがほとんどです。そんなわけで一か所にとどまり、星景は歩ける範囲で、となります。また星野向きの撮影地は見晴らしがよい反面殺風景なことも多く、そんなときは撮影風景を撮ったりしています。空は非常に暗いところが多いのでISO8000 F2.8 20sec(15mm時)が基本ですが、あと倍くらいは露出かけたいなぁといつも思います。明るいレンズが欲しいです。。。

星景写真に対する思い

星景写真というと何か特別なジャンルのようにも聞こえるかもしれませんが、私は基本風景写真ととらえています。よくネットとかでは「星と風景が写っている」という表現がされますがとても違和感があります。星は風景ではないの?「星が写っている風景」ですよね。仕上げの方向性は写真の特性上、「見た目以上に写る」ということは認めつつも、見たときの「イメージ」から遠く離れた処理はしないように心がけています。少し空が明るいような都市近郊で撮るときはあえて明るめに仕上げたりもします。

富山市郊外にて

木曽にて

近年、とみに夜空が明るくなってきてるなぁと感じます。星が好きなのにそう簡単には素晴らしい星空に会うことはかないません。もっと光害に対する関心が深まり、よりよい星空が戻ってくれるといいなぁと願いながら、星空のすばらしさが伝わる写真を撮れるよう精進したいと思います。

九州にて漆黒の夜空

著者:荒 隆(あら たかし)
長野県伊那市在住 日本星景写真協会 会友
Facebook Twitter  Instagram