2022年10月号「イエソラ・タビソラ」

前回コラムを書かれていた、だいとしぃさんの紹介で今回のコラムを書くことになった、加藤加奈子です。私が星の写真を撮るようになったきっかけは、だいとしぃさんの星空撮影講座を受けたことです。家族との思い出と一緒の星空が好きで、家の近所や家族旅行先で星景写真を撮っています。そして、星空撮影初心者ながら、年一回の星のグループ展に参加するようになりました。このグループ展への参加は、「星々の集い2018 ~新しい一枚~に出してみない?」というお誘いからでした。「私の写真には、天の川もないし、降るような星空でもないですよ」とお伝えしたのですが、「そんな星景写真があってもいいじゃない?ベランダから星が撮れるって、撮ったことがない人に伝えましょう!」と、だいとしぃさんに背中を押され、参加することになりました。

「星々の集い2018 ~新しい一枚~」

初めての星のグループ展、自分のテーマは、「イエソラ・タビソラ」としました。その中の一枚がこの写真。「今織姫と彦星が南中しているよ」、だいとしぃさんの真夜中のSNSに、カメラを持って駐車場へ走りました。ライブコンポジットをするとモニターに、夏の大三角が現れました。「わーい!撮れた!」見上げても星は見えない街の空、守衛さんに不審がられながらのイエソラ撮影となりました。写真に添えた作品の解説文は「星の名所には行ったことがなくて」から始まっています。

写真:①「小さな空」

 「星々の集い2020 ~わたしの世界~」

普段、星景写真を撮っているのは、車で1時間半のさきたま古墳。自宅よりも空が広くて大好きな場所。古墳は、言ってしまえば古いお墓ですが、古代の人々が同じ場所から天を仰いで月や星を眺めたかと思うと、なんだかとても不思議な繋がりを感じるのです。

「星々の集い2019 ~わたしの一枚~」では、北斗七星と古墳の上に咲く満開の桜の写真を展示しました。さきたま古墳は県外からも観光客が訪れる桜の名所なのです。

2020年の展示もさきたま古墳を舞台にするにあたって、今度はオリオン座をメインに撮ってみようと思いつきました。なぜオリオン座かというと、こんな思い出があるのです。

ある年の夏休み、プーケットのレストランで夕食をとっていると、ものすごいスコールが降りました。スコールがあがってレストランを出ると、目の前の海の上には大きなオリオン座。なんて美しくて、なんて大きな星座!その頃は、手持ちで星が撮れると思っていなかったので、その時の感動はわたしの思い出の中にしかありません。そして、それがオリオン座に恋をした始まりでした。いつか思う存分オリオン座を撮ってみたい、星空初心者の私はなぜだかそんなことを考えたのです。

私のみならず、オリオン座は、星空にあまり詳しくない人でも冬の夜空で目にすることがある、わかりやすい星座です。だけど、普通に撮ったのでは面白くない。そこで「星空の好きな青年が、桜の木の下でオリオンに愛を誓う」というロマンチックなストーリーを考えました。バックには桜が必要なのですが、春には、夜でもかなりの数の観光客が訪れる場所とあって、なかなか思うようには撮れません。それでもどうしても思い描く絵が撮りたくて友人の力を借りて何度もトライ。「星々の集い2020 ~わたしの世界~」でDMに選んでいただくことになる一枚が撮れました。

写真:②「オリオンに愛を誓う」

さて、~わたしの世界~とするには、写真が一枚では足りません。最終的には3枚組になるのですが、次に考えたのが沖縄のあの有名なビールと星座を組み合わせることでした。簡単そうに見えるこの構図、日が暮れて低空に見えていたオリオン座もだんだんと天頂ちかくなってしまい、構図をとるのに一苦労。友人とともに試行錯誤した末、撮れた一枚は、「星々の集い2020」で、実は一番人気の一枚となりました。また、この展示と同時期にOM SYSTEM(旧オリンパス)のWEB写真展で「オリオンに恋をして」というストーリー仕立ての19枚組の写真展をすることもでき、思い出に残る年になりました。

写真:③「オリオンに乾杯」

「星々の集い2021 ~千夜一宙(せんやひとそら)~」

コロナ禍、出口の見えない毎日、それでも2020年の秋、なんとなく「あともう少しじゃない?」そんな気持ちがみんなの中にあったように思います。もうちょっとで願いが届くよ、もうちょっとで自由になれるよね、そんな想いを星空に写しこみたいと思いました。場所はもちろんいつもの古墳。テスト撮影の日を決めて友人にモデルを依頼。「自由に跳んだり跳ねたりしていいから、月に手が届きそうってやってみて」。私は離れたところからカメラを構えました。だんだん日が暮れてまわりが暗くなっていきます。シャッタースピードをこれ以上遅くしたら人がブレてしまう。感度をあげたらノイズが怖い。焦ります。一瞬、友人の体が止まって月に向かって手を伸ばしました。「届け!テスト版」が撮れました。

写真:④「届け!」

1ヶ月後の本番撮影日、三日月は手を伸ばせば届くあたりに降りてきてくれるはず、そして木星と土星がかなり接近する日。二人で古墳の上にスタンバイしたのですが、無情にも龍のような雲が月のいるあたりを隠しました。雲の下から月がでた時には、もうとっぷりと日が暮れてしまいました。

やっぱり、想い届かなかったか。。。。。

写真:⑤「習作」

コロナのバカ。。。ほんの一瞬下火になったコロナはまた翌年には拡大をしてしまいました。

テスト版でしたが、私はこの「届け!」を「星々の集い2021~千夜一宙~」に出すことにしました。DMデザインに選んで頂き、そしてまさかの「星ナビギャラリー10月号」のトップ写真として掲載もしていただきました。星ナビギャラリーの応募作とは方向性の違う作品ですが。。。という注釈付きで(笑)

タビソラ

今年の夏は、ひさしぶりに旅先で天の川も撮りました。舞台は私らしく、能登の遺跡です。遺跡の真ん中に座って空を仰ぎました。はるか昔、この場所からは、もっとはっきりした天の川が見えていたことでしょう。古代の人々はどんな思いでこの空を眺めたのでしょうね?

写真:⑥「悠久の時を感じて」

今ちょうど、「星々の集い2022 ~希望の光~」の展示をしていて、星を撮り始めた頃のことを思い出しながらこのコラムを書きました。

次の一枚はどんなイエソラ・タビソラ?

(プロフィール)
加藤 加奈子(かとう かなこ)
石川県生まれ 埼玉県さいたま市在住
2014年 OM SYSTEM(旧オリンパス)のカメラと出会ってから OM SYSTEM一筋
だいとしぃさんの星撮り仲間