2023年9月号「オーロラ予報のススメ」

<はじめに>

はじめまして。アラスカ在住の八重樫と申します。オーロラに魅せられて、ある時は写真家として、またある時は研究者としてアラスカに通いはじめ、ついには移住してしまいました。この度、星景写真家の池田晶子さんとのご縁によりこちらのコラム執筆のお話をいただくこととなりました。今年5月号のコラムで平井諭さんがアラスカ遠征のお話を寄稿されていましたが、その際に私も撮影やお食事などでご一緒させていただきました。チームメンバーに登場した横山明日香さんは10年以上前にお知り合いになり、ずっと私の憧れのオーロラ写真家の一人です。

<オーロラシーズンの始まり>

暑い短い夏を過ごし8月上旬ともなると、少しずつ秋を感じさせる冷たい風が吹き始めると同時に、夜の闇が空を覆う時間が徐々に徐々に増えてきます。そして、あぁまたオーロラのシーズンがやってくるという、ワクワク感とともに少し焦るような気持ちも芽生え始めます。5月に白夜の季節が始まってから、だらけきったオーロラハンターとしての夏休みを過ごしてしまう私は、大抵シーズン最初のオーロラを逃してしまい、SNSで人々のオーロラ写真の投稿を見て、しゃきっと気を引き締めるのです。

シーズン初め、秋のオーロラ。(2018年8月25日撮影)

<オーロラ予報について>

今回はこのオーロラ撮影に関連して、オーロラ観測と宇宙天気予報の研究の場に身を置いた経験のある私が、普段どのようにオーロラ出現予測をしているかという話をさせていただこうと思います。

私がオーロラの動向を見るためにいつも参照しているのは、太陽と地球の重力が釣り合うラグランジュ点と呼ばれる場所で太陽風の観測を行っている、DSCOVR衛星やACE衛星のデータです。一般向けに宇宙天気の情報を発信しているspaceweather.comから、左上部のカラムより衛星のリアルタイムデータに飛ぶことができます。ここでは、太陽風や太陽磁場の状況を知ることができます。最も重要なのは太陽磁場の強さと向きで、五つあるグラフの中の一番上、赤い線のグラフより読み取ることができます。横軸が時間軸(UTC)で、縦軸が磁場の強さです。最右端が現在の様子を示しており、赤いグラフがマイナスの方向へ傾く(0よりも下へ下がる)と、太陽風磁場が地球に対して南向きである、という意味になります。下へ下がれば下がるほど南向きの太陽風磁場の強度は強く、そのような状態では地球の磁場に捕らえられた粒子(電子や陽子)がより地球に降り注ぎやすくなり、すなわちオーロラの活動が活発になるのです。逆に、赤いグラフが上向きになると太陽風磁場が地球に対して北向きとなり、粒子が降り注ぎにくい場となります。

少し複雑な話になってしまいましたが、要約すると赤い線がマイナスの方向へ下がったときにオーロラが活発になり、逆にプラスの方向へ上ったときはオーロラ活動は静穏になるのです。目安として、−5よりも下がった状態が継続すると活発なオーロラが予想されます。

ACE衛星データ。 (c)NOAA/SWPC

オーロラ予報には短期・中期・長期予報のようにいくつか分類することができ、上記の方法は短期的な予報(1時間〜)に役立ちます。その時点での太陽風の速さにもよりますが、300km/s~の低速では磁場が南向きに傾いてから2時間弱程度、400-500km/sの中程度の速度では1時間~1時間半程度、高速の600km/s~ではだいたい1時間以内にオーロラが活発になる可能性が高くなります(衛星と地球の距離、太陽風の速度から、およその到達時間が計算できます)。太陽風の速度は、衛星データの上から四番目のグラフで知ることができます。

次にオーロラの中期的な予報ですが、これは2-3日後のオーロラの活動度を予測するものです。主に太陽表面で起こる爆発現象(フレア)発生により、プラズマの塊が地球方向に飛んでくると、その塊がフレア発生の2-3日後に地球に到達することでオーロラが活発になることが予想されます。また、太陽のコロナホールと呼ばれる部分が地球方向へ向くと、そこから噴き出している高速の太陽風が地球へ到達し、そのような場においてもオーロラが活発になる確率が高くなるとされています。

太陽風と地球磁気圏との相互作用を描いた図。 (c) 日本極地研究振興会

オーロラの長期的な予報としては、太陽自転周期の28日ごとに大きな黒点や黒点群のある部分が地球方向へ向くことで、オーロラの活動度を予測できます。さらには、太陽活動度の約11年周期もまた、11年ごとに黒点数が増えたりフレアの頻度が多くなったりするため、オーロラの活動度と連動しています(これは超・長期予報とも言えそうでしょうか)。

一般的なオーロラ予報は、上記の中期・長期的な予報に関連する情報をもとに作られています。ここで注意しておきたいのは、どんなに激しい擾乱が地球に到達したとしても、その時点での太陽風磁場が地球に対して南向きになっていなければ、オーロラの活動はあまり高まらないのです。これが、オーロラ予報がなかなか当たらないと言われる原因と思われます。太陽風観測衛星のデータを使ったオーロラ短期予報は、地上の天気予報よりも当たると個人的な感覚では思います。ただ、太陽風磁場の広がりや揺らぎ、動きなどについてはまだ研究途上の部分が多く、磁場の向きが切り替わるタイミングはよくわかっていないのです。

他には、強い太陽風磁場が長い間南向きを維持すると、地球に大量の粒子が降り注ぎ、地球の周りに大規模な電流系が作られ、地球磁場が大きく乱れる磁気嵐というものを発生させます。この磁気嵐の度合いを知る指標になるKp指数というものもあり、この値が高いほど地球磁場が乱れているということになります。磁気嵐のときは、普段よりも様々なオーロラの色や形のバリエーションが見られることが多く、濃い赤オーロラや、夕刻や夜明けとともに現れる鮮やかな紫色のオーロラも、磁気嵐の最中では出現する確率が高くなります。

磁気嵐オーロラ(2023年2月27日撮影)。オリオン座の横の赤色は肉眼でもくっきりと見えました。

北の空の星座たちと共に(2021年4月1日撮影)。グラデーションが美しい。

私はこのようにして、まずは現在の宇宙天気と衛星データを、次に全天カメラと地上の天気予報をチェックし、外に出てオーロラを待つかどうかを決めています。オーロラハンターを名乗るには少々怠惰なやり方だと思われる人もいるかもしれませんね。もちろんこれらの予報がすべてではないですし、見逃しや空振りな夜も多くあります。なのでオーロラ鑑賞を目的に旅行で訪れる方は、オーロラ予報は参考程度に、ぜひ気合を入れて毎晩明け方まで待ってほしいです。日が沈んでから全くオーロラの出ない夜でも、午前3時過ぎに太陽風磁場が少しでも南向きに傾いたら、夜明け前に素晴らしいオーロラ爆発が見られる場合もあるからです。

<おわりに>

私はオーロラハンターでありながら、日中は仕事と子育てに追われるような生活を選んでしまったがために、長距離マラソンランナーのように途中で息切れしてしまわないよう、より効率的なオーロラハントのやり方を身につけてしまいました。通常の生活をこなしながらでは、遠出して素晴らしい地上景とともにオーロラ写真を撮影するようなこともなかなか難しい日々ですが、私は空間の幅ではなく、時間の幅で勝負していきたいと思っています。これまで数えきれないほどのオーロラを見てきましたが、今だに初めて見るような光景に出逢うこともまだまだたくさんあります。細々とではありますが、これからもずっと、オーロラを追い続けていきたいです。

月夜のカラフルなオーロラ(2020年3月19日撮影)

注: 現在は研究を離れて何年も経っているため、古い情報も混じっているかもしれません。学術的により詳しく正確に知りたい方は、下記書籍やウェブサイト、関連論文などを参照してみてください。

参考:

片岡龍峰著 「オーロラ!」、「宇宙災害」
spaceweather.com – News and information about the Sun-Earth environment
https://spaceweather.com

NOAA Space Weather Prediction Center (アメリカ海洋大気庁 宇宙天気予報センター)
https://www.swpc.noaa.gov

京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター
https://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/index-j.html

情報通信機構(NICT)宇宙天気予報 https://swc.nict.go.jp

宇宙天気ニュース http://swnews.jp/

著者 八重樫あゆみ(Ayumi Yaegashi Bakken)
アラスカ州フェアバンクス在住のオーロラ写真家。オーロラを追いかけ始めて16年。オーロラを撮影するために独学で一眼レフを学び、オーロラの全てを知りたい一心で地球物理学の修士号を取得。その後、気象会社勤務を経て、2014年アラスカ移住。現在はアラスカ大学地震センター勤務。また二児の母として子育てに励む傍ら、ツアーガイドや写真家として活動中。
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