2022年6月号「月の暦と生き、星の巡り合わせと共に過ごす時」

皐月の空が中々思うように晴れず、コロナの収束も未だという中、2022年6月のコラムを担当することになりました、長野県小諸市よりの星の便りです。荒さんからのリレー指名を頂きコラムは久々の執筆となります。私事ですが引越しをすることになり締め切りぎりぎりの状態で原稿をと考えていました所、私の写真教室の生徒さんの訃報が飛び込んできました。私達の仲間である方々の訃報にも接したここ何年かですが、そんな中思うことは、星空や月夜の下で過ごす夜、人々の生活の輪廻に触れたり、自然の中に身を置いた時に動植物の息遣いなどを感じることが最近増えてきて、月の暦と共に過ごし、星の巡りの中に佇む事が出来るのは幸せだなと最近感じています。月は晦日の夜から満月(望)そして朔をという風に姿を変えますが、その日の月の齢(よわい)はそれぞれの呼び名があり、私はその意味を考えて撮影をすることがあります。

「十六夜満月」(写真1)

東の空に満月として姿を現した月が夜半を過ぎて十六夜の月へと変わり、朝焼けの空に残月として満月の如き姿で山の端の沈む様子を何時か写したいと思っていましたが、夜明けの様子に直感を得て、近くの「クルミの木」に向かうとアルプスに十六夜満月がかかり今に沈もうとしていました。

ここ近年は、コロナの影響もあり遠征に出かけることは少ないのですが、昨年久々に上高地に出かけて宿泊し、大正池の河畔で素晴らしい夜に出会えました。ほぼ一晩快晴という条件に恵まれて穂高を含む北の空を「タイムラプス映像」の連続撮影をしておりますと、北斗七星が昇り運よく明るい流星が流れてくれました。カメラを幾つかの場所に置き、木道を黙々と歩き河童橋までの道のりを、空の暗さと獣たちの息遣いに注意しながら星空を見上げては歩き、幾つかのポイントで星の風景を撮り、再び大正池に戻る頃には焼岳が朝焼けに染まり始めていました。帰宅後に「比較明合成」の手法で一夜の様子をそれぞれのシーンごとに構成しなおして一枚の作品にしてみました。

「上高地夜半」(写真2)

今後は桜を追い、田んぼの景色を眺め天の川を季節ごとの様子を日本各地で撮影して歩きたいですね、又、もう一度オーロラや日食といったすでに罹患して久しい「写して見たい病」が再発してきていますので、コロナの収束を見越したうえで出かけてゆこうと計画を練っています。

私は星の撮影に臨む際に心がけていることがあります。

季節性は?空の雲の量は?月齢は?

一枚の写真(絵作り)にストーリーを加味することをいつも考えています

六月に信州の北の地方は田植えも終わり早苗がスクスクと伸び始める頃、周囲の山々は薄いピンクの色の染まります。「タニウツギ(谷空木)」というスイカズラ科の花が一面に咲いている様は見事で別名「田植え花」とも呼ばれている。旧暦での花暦なので水無月の季節に咲いているのですが、こんな呼び名もあります。「死人花」やお葬式の時に使われ骨を拾う箸に使ったりもしますので「葬式花」、色が赤みを帯びているので「火事花」と有難くない忌み嫌われるような言い方もあるのですが・・・、ある時北信州の一番奥の雪深い集落に撮影に行き残雪が残る大きな土手一面にこの花が咲いていました。満月過ぎの月が中天にあり花を照らし出しています。ピンとくるものがあり車を止め降りてみると、北の空に北斗がかかっていました。柄杓は傾き水無月の田んぼに満々と水をたたえる頃の姿です。古来中国では北と南の「斗」が命を司る仙人の姿との謂れを思い出し、「タニウツギと北斗」を一枚の画角に収めてみました。

「タニウツギと北斗」(写真3)

「県境の星空」(写真4)比較明合成

季節を感じ、そして知り、こんな写真を撮りたいとの思いから、もう十年以上昼間の風景も含め備忘録として「五七五」の言葉遊びをしています。きちんと季語を用い俳句としての体裁を踏襲するものもあれば、「山頭火」のように自由律で見た事、心に思うことを言葉にしてみます。いつか又この場所で幾度の夜を重ねれば、心と頭の中の光景とが一致する星景色は何処にあって出会う事が出来るのでしょうか?

冒頭に触れた鬼籍の入られた方の一報を聞いた夜は、こんな言の葉が浮かんできました。

「短夜の明け行く色に明日思ふ/みじかよのあけゆくいろにあすおもふ」と

旅の好きな方そして少し私よりお姉さんで、旅行記の写真を見せていただくのがとても楽しみでした。年齢を重ねることは多くの方とのお別れもあるのですが、悔いのない生き方を教えていただける多くの方に、感謝と教えを乞うことのありがたさを思うこの頃です。

「短夜の朝に」(写真5)

コラムの最後に、星の好きな皆様方にも素敵な夜空が微笑んでくれることを祈っておりますが、寝不足にならぬようにバランスを取りながらお互いに健康に留意して星空を楽しみましょう。今後もより多くの方に星空の魅力を伝えて行ければと奮闘する日々です。

2022年5月吉日

小諸より

著者:有賀 哲夫(あるが てつお)
長野県小諸市在住 日本星景写真家協会 会員