2020年5月号「塔ノ岳にて」

こんにちは、準会員の宮川です。入会して数年になりますが、実は私の主なフィールドは山岳写真です。そのため、星景写真に対する基本的なスタンスは「山へ行ったついでに撮る」ということになります。

従って、先ず行く山(若しくは山域)を決めて、その山行を安全に遂行するために必要な情報を集め、山の撮影に適したルート、場所、季節、装備を計画します。
星景撮影のことを考えるのはそのような安全な山行計画を立てた後で、山行のプランに沿った宿泊場所でそれなりの条件で撮影できる対象が(もし)あるなら、どういう風に撮ろうかな、という流れになります。山行の難度によっては夜の撮影は最初から諦める場合もあります。

【写真1】雪の立山撮影の際に撮った「立山から昇る夏の大三角と土星」(94分 バルブ撮影)

ところが、この順番が逆になって「こういう星空の写真を撮りたいからあの山へ行こう」ということになる場所が、私には一つだけあります。
それは丹沢山地の南部に位置する塔ノ岳(とうのだけ)です。私が住む小田原市からも近い標高約1,500mのこの山の利点は、
1)交通アクセスが良く、登山口から3-4時間(自宅から4-5時間)で頂上に着ける。
2)頂上が凸型で北側を除く全方位の見晴らしが良い。(東に東京、横浜の夜景、南に相模湾、西に富士山や南アルプスの山景)
3)頂上に通年泊まれる小屋がある。

夜も明るい大都市の夜景が有名な場所なので、天の川などを撮るには全く適さないのですが、地平線、水平線を見渡せるメリットは大きく、朝夕の時間帯に低い高度に見られる事象を見るにはとても都合の良いところです。
その利点を活かして、太陽に近くなった彗星や、細い月と惑星の接近などの景色を撮った作品を何枚か掲載します。

【写真2】北方から見た塔ノ岳山頂。奥に伊豆大島。見晴しの良い展望台のような立地が分かると思います。

【写真3】山頂からの東京中心部の眺め(300㎜望遠)(某写真誌で入選)

【写真4】山頂にて西方から北方の空を横切るISS(’17年1月撮影 15㎜対角魚眼 比較明合成)

【写真5】東京湾上空のアイソン彗星と水星、土星 (’13年11月撮影 NHKの特集番組オープニングに採用)

【写真6】南アルプスに沈むパンスターズ彗星(’13年3月撮影 5枚を比較明合成)

【写真7】江の島上空の月(月齢27)と金星 (’14年1月撮影 「星ナビギャラリー」採用)

【写真8】南アルプス上空のラブジョイ彗星(’15年1月撮影)

【写真9】丹沢大山上空のカタリナ彗星と月、金星(’15年12月撮影)

午後早めに山頂の小屋に着いて、出入りしやすく人の邪魔にならない場所に寝床を確保して昼寝。日没前から活動開始して、目的の撮影の間に時間があれば寝床に戻って仮眠し、明け方にまた起きて撮影、というパターンです。
こんな便利な環境なのに、大混雑するダイヤモンド富士の前後を除くと夜の撮影目的でやって来る人は殆どおらず、快適に撮影できるのも魅力の一つです。

とは言え、年齢を重ねるに連れ、重い撮影機材を背負って4時間の山登りを耐えるのも最近は辛くなってきました。あと何回か、「これは」と思う機会に塔ノ岳山頂で会心の撮影を楽しみたいものです。 (了)

著者:宮川 正(みやかわ ただし)
神奈川県小田原市 在住
日本星景写真協会 準会員
日本山岳写真協会 会員
山岳写真ASA 会員
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