2015年9月号「星景写真は心で撮影する」

1 写真を撮るということ

私たちは、日本星景写真協会のメンバーとして、日々、星空に対峙しながら、地球上の風景の上に広がる星空を撮影している。しかし、この星空を撮影するという行為の意味は何であろうか。このことを考えるため、「風景写真」を例に、人はどうしてNature Photo(自然写真)を撮るのかという問いから考えてみよう。写真を撮る理由のひとつは、意識的に物事を記録する(事象の記録)のためである。例えば、旅行や登山の行為を記録するために撮影することだ。しかしながら、このような記録写真とは別に、きれいな光景や稀な事象に出会った時など、思わずシャッターを切ってしまったという事もあるだろう。それは、そのような光景や事象を撮影することで、自分の感動や自分自身の置かれた状況などを記憶する、すなわち、自分が共有した時間・空間を記録することがメインになっている。だから、撮影者にとって、その写真が、その場所への至る過程や人との出会い、光景との出会いなどの、数々の記憶と一緒になって存在している。すなわち、その人にとって写真に写っている以上の情報を持っている(あるいは、記憶を蘇らせる鍵になっている)わけだ。一方、その時空を共有していない第三者からみれば、写真に写っている情報以上のものを受け取ることができないから、撮影者自身が渾身の1枚と思っている写真が、なかなか評価されないなどということも起き得る。ところで、風景写真家として、風景を撮影している人たちは、どのような理由で撮影しているのであろうか。私が思うに、それは、風景を通して自己表現(心象風景)をしたいということだろう。たから、撮影者の自己表現が人々に伝わって、初めて意味のある写真になる。私たちは、このような風景の写真を「風景写真」と呼んでいる。要するに単に風景が写っているだけでは風景写真ということは出来ず、その写真から明らかに撮影者の強い意図がわかるものを「風景写真」というのだ。

2 星景写真とは

ここで再び、私たちはどうして星の写真を撮るのであろうか。これも、第1に天文現象の記録のためだろう。特に、天体写真の場合、長時間露光やフィルター、分光から多波長にわたる記録をすることで、目では見えない現象も写し取るという手段として活用されてきた。星野やDeep Skyを対象とした場合、それ自体が美しい対象であったりロマンを感じる対象であったりするため、科学写真としての天体写真にも関わらず、思わず芸術のような美しさを感じることがある。しかし、このような科学写真としての天体写真と共に、我々は日々の生活の中で、星を対象としたNature Photoがある。「星景写真」である。

Photo1_Ohnishi_To the Edge of Dream (427x640)
写真1 To the Edge of Dream(夢の縁へ)
撮影Data:2010年11月,
Canon EOS 5DMlI, Nikon AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED, 絞り開放,ISO=2500, 30sec

「星景写真」とは、風景と星空を同時に撮影することで、単独の風景の写真や星の写真とは異なる相乗効果を狙った写真ジャンルである。ここで、風景を写しただけで「風景写真」といわないように、星と風景が同時に写っているだけでは「星景写真」とは呼べないことに注意しよう。

天体写真と星景写真の違いを、一言で言えば、星景写真は星空と風景を同一画面に収めながら、作者の心象風景を写しだす写真といえる。また、このような「星景写真」は、「風景写真」と同じく、「Nature Photo」の一つである。「Nature Photo」は「自然と対峙」し・「自然と同化」して自然を描写する写真のことだ。

Photo2_Ohnishi_Quotation the Dream (640x640)
写真2 Quotation the Dream(夢の引用)
撮影Data:1999年8月,
Hasselblad 903SWC, Biogon38mm F=4.5, 絞り開放, コダック
エクタクロームE200

3 星景写真を撮るということ

ところで、皆さんは、なぜ「星景写真」を撮るのでしょうか。私は、宇宙を見上げたとき、宇宙への憧れ・驚異・畏怖の念を表現したいといつも考えてみました。このような感情を表現するのに、宙に浮いた世界よりも、地上のから見上げている世界を描写するほうが、素直に気持ちを伝わると考えたのです。地上の風景と一緒に写しこんだ星空は、人々の心の安らぎや安心を感じるでしょう。天文学の研究も、宇宙の真理に触れる一つの行為であるのですが、同時に、「星景写真」の撮影をするために、特定の事象(人が、特定の時刻(時間)に、特定の場所(空間)に存在し、天象の現象と出会うということ)に存在することが、やはり宇宙の真理に触れる行為だと考えます。このように宇宙の神秘に触れることで、私たちが地球の上に「生かされた存在」であることが実感できるでしょう。
あなたも「星景写真」を撮ってみませんか?まだ、見ぬ新しい世界を目指して。

著者:大西浩二(おおにしこうじ) 博士(理学)
(長野市在住)日本星景写真協会副会長
日本天文学会、国際天文学連合会員、日本天文協議会運営委員。重力レンズを使った系外惑星探査を行っている。毎日、一日1枚の星景写真をFBとTWITTERにupしています。
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