煌めく冬のオリオン、立ち昇る夏の天の川・・・。
星空写真と言えば月明かりのない暗闇の撮影をイメージされる方が多いと思います。
星景写真は地上と星空の景色の調和を写し描きますが、暗闇の中ばかりではなく月明かりや街の灯りを利用すると表現の幅がぐんと広がります。
ここでは表現の幅を広げるもう一つの方法として、薄明の時間帯の光を利用した星景写真の表現についてご紹介したいと思います。
薄明とは日の出前、日の入り後の空が薄明るくなった頃を指します。
薄明は「市民薄明」と「天文薄明」の2段階に分けられますが、「市民薄明」は日の出前、日の入り後の約30分程度、「天文薄明」は日の出前、日の入り後の約1時間半程度になります。
(緯度によって異なります。)
薄明時間の星景写真が楽しめるのは天文薄明開始(終了)から約30~40分くらいで、夜明け前なら、みるみる星が空に溶け込みながら時間とともに空の色が変化する様に心が奪われるかと思います。
(1)薄明時間の星景写真
薄明の時間はブルーアワーやブルーモーメントとも呼ばれるように、この時間に撮影する写真は全体的にブルー架かった色味が魅力的です。被写体によって相性が分かれるところでもありますが、とても幻想的な表現に適しています。
(2)薄明の光を利用した星景写真
条件が良ければ、薄明の光が反射して被写体が照らされるのを利用して撮影をすることが可能です。半月の月明かりほどは強い光ではありませんが、暗闇で撮影するより地上部の表情が出てきます。白や明るい色の被写体はその反射がより明確になります。
写真は夜明け前の薄明の光に照らされた白峰三山をと沈む冬の星座を写しました。この日のこの時間帯には月明かりはありませんでしたが、白い雪山が明確に浮かび上がり、薄明の光のみでここまで被写体が照らされることがわかる一枚かと思います。
月光と異なり、星の巡りと薄明の時間の変化は毎年同じですので、季節によるパターンを覚えていると計画を立てるのに便利です。例えば、4月中旬から5月上旬頃に夜明け前の天の川~さそり座付近を狙えば薄明の光で地上部が斜光に照らされています。11月中旬頃の夜明け前に西に沈み行くオリオン座~冬の大三角方向を狙えば地上部が順光で照らされています。
このように薄明の時間帯に太陽の昇る(沈む)方向から90~180度の方向を意識してみてください。淡い光なので高感度のデジタルカメラで撮影しないとわからないかもしれませんが、暗闇で撮影する地上部と比較してその様が変化していることに気付かれるかと思います。
画角や仰角、場所の開け方によっても条件は変わりますので、狙う被写体や場所によって時期やパターンを色々と探り、バリエーションを考えると表現がどんどん広がっていくかと思います。
余談ですが「薄明光」や「薄明光線」という言葉がありますが、こちらは主に「天使の梯子」と呼ばれる現象のことを指す言葉だそうで、このコラムで扱っている薄明時間中の太陽光の散乱による光は区別するために「薄明の光」と記しました。
(3)夜明けのグラデーションを写す
薄明の時間の最大の魅力は夜明けとともに変化する空のグラデーションです。日の出の方向の空、藍色からオレンジ色に染まりゆくグラデーションの中に星が溶け込んでいく様は星空を撮影していて最も惹かれる時間です。
薄明中の夜明けのグラデーションと星空を撮影するのにおすすめのシーズンは、
・1月下旬から2月中旬頃の明け方、蠍座やいて座付近の天の川付近
・2月上旬から下旬頃の明け方、夏の大三角形付近
・8月から9月上旬頃の明け方、昇り始めたオリオン座や冬の大三角形付近
この辺りが24㎜前後の画角で星と夜明けのグラデーションがほどよく納まる例になると思います。
皆様も薄明の時間帯にお気に入りのシチュエーションを見つけ出して是非撮影を楽しんでみてください。
著者:田淵典子(たぶちのりこ)
日本星景写真協会準会員