2020年1月号「作品は、自分自身」 -表現するもの 魅せたいもの-

日本星景写真協会webサイトにお越しの皆様 2020年あけましておめでとうございます。昨年の当協会総会より会長となりました中川達夫です。おかげさまで日本星景写真協会の会員は66名、会友232名(2019.12現在)となりました。当協会の活動としましては、全国巡回展の開催がメインで2008より3回開催し、今年2月から第4回目が始まるところです。この全国巡回展以外の活動はやや低調気味ですが、協会メンバーそれぞれが活躍することで日本星景写真協会の知名度があがったものと思います。引き続き星景写真の世界を知っていただけるよう全国を回りますのでよろしくお願いします。

星景写真の裾野が広がり、星景写真にもさまざまな表現方法があることは、今までの当協会サイトのコラムリレーにより垣間見ていただいておりますが、今回は改めて自分の基本スタイルを紹介したいと思います。まず簡単な星景歴です。それこそ10歳頃より星空の世界を知ってから長らくいろいろな場所で星空を眺めてきました。このなかで写真も撮すようになり、作品が天文や写真・山岳関係の雑誌にも掲載いただき、新宿をはじめとした全国で個展も開催することもできました。また星景タイムラプス用の撮影を、2009年頃から始め 2012.2公開映画や里山・科学TV番組において星景動画シーンに使用されています。

オリオン座大星雲の光跡 2007.11 PENTAX67 350mm F2.8 60分 fortir-SP

2010年までは主に中判フィルムカメラによる長時間露光の星景写真を写していました。オリオン座大星雲の赤い色彩と適度な月明かりによる剱岳の雪稜を表現できました。半月前の月が沈みかける時間帯に露光し雪面が赤くなりました。1枚のフィルムに星の光を蓄積することで豊かな色と階調が表現できました。低感度高彩度のフィルムを使用しています。
※デジタルカメラでも1コマ撮りで同様の作品が写せるようになったようです。
2017年10月 西澤政芳氏のコラム参照

オリオン座大星雲 2017.10 Canon6D-seo4 200mm F2 2s ISO12800

一方デジタルカメラでは、この高感度特性を活用して短時間での撮影が可能になりました。山頂上部にかかった雲は、今まで(フィルム)光跡の陰りとなっていたものがこの存在も写せるようになりました。連写した中から適度な形のシーンを選んだものです。オリオン座大星雲など散光星雲の色彩表現が可能となった「ローパスフィルター改造機」を2013.9より導入しています。また改造機の作品としては、第2回巡回写真展(2012-2014)に太田直志氏の出品(3点)があります。

このほか刻々と変化する夜空の情景をデジタルカメラの性能を生かして捉えることができました。

内合直後の金星と剱岳の吊雲 2019.11 Canon6DⅡ 400mm F6.7 1/8 ISO250 ※1

内合の前後2週間くらいは、視直径が1分近く(月の1/30)400mm以上の望遠であれば金星の三日月形の姿を捉えることができます。ただし金星は、-4等級と特段に明るいので地上の風景と一体化するには、ちょっとした工夫が必要です。1.超低空であることによる大気の減光 2.適度な雲での減光 の2点に注視して2018年の内合直後の明けの明星を追った際の一コマです。

金星部分をトリミング →A3サイズ以上のプリントするとわかります。

月光環 2008.8 Canon5DⅡ 16-35mm F2.8 15s ISO3200

稜線で撮影していると気流の流れを感じることができます。日本海側から流れてきた雲が自分の居る尾根を越え東側に抜けるとき雲の形が目まぐるしく変わりました。ちょうど下弦の月が昇り月光環となったものです。

月のグリーンフラッシュ 2019.9 SONY α7RⅡ 600mm F6.7 0.6s ISO1600 ※2

都会での星景写真を狙うにあたり、月没の方向と時間を勘案して撮影地を選定しました。方向だけでなく撮影地の標高とビルの高さも考慮しています。月が低空に架かる薄明時の月景となる晴れそうな週末狙いで撮影に行ったものです。月のグリーンフラッシュは澄んだ空の時に見ることができるようです。

月明かりの里山星景を連続撮影していると時として夜間も行動する動物も捉えることができます。

下北半島の冬夜 2015.2 Canon6D 16-35mm F3.2 8s ISO4000 ※2

青森県下北半島アタカで越冬している寒立馬です。足跡から馬たちが通りそうな場所を見込んでカメラをセットし3時間の連写です。このほかにも2台場所を変えてセットし、車中に身を潜めて気配を消しました。

星空とホタルイカ  2011.4 Canon5DⅡ 14mm F2.8 20s ISO3200 ※3

富山湾でみられるホタルイカの身投げによる光を20秒露出で写しました。星空は点像で波の動きもわかる臨場感が感じられる作品となりました。春季は空がかすんでいる晩が多く星空とホタルイカの競演は数年に一度しか見ることができません。

たとえば前後の画像を複数枚重ねれば、ホタルイカの光は枚数分加算され見栄えのある画像にはなるでしょう、この反面波の表情は消えてべったりとした塗り絵のような海面になってしまいます。はたしてこれはリアリティのある写真なのか。そもそも作品の意義にも関連します。
作品は自分自身であり、何を表現し、魅せたいかに繋がります。現場感を表現できるのが1枚撮りであり’その時”その場’でしか見られない刻々と変化する星景シーンを模索しています。天体の位置や気象条件などの自然科学条件を合致させ、かつ風景的エッセンスも加味した作品を追い求めています。四季の風景や里山の景観の中で、身を持って夜風を感じながら星景写真を楽しんでいます。

2010年の個展では、いわいる日周運動の軌跡の作品が半数を占めていましたが、一部の一般の方は「星」とみられるのではなく造形的なものとも認識されていたようです。※極端な例では、流星がいっぱい? 以降はデジタルカメラならでの表現として、より星空に臨場感のある作品を心掛けています。

惜しまれ2017年閉館となったコニカミノルタプラザ(新宿) 2010.2個展

デジタル画像を見るのには、圧倒的に紙ベースから液晶画面に主体がかわりました。とはいうものの画面サイズが10cm位のスマホ・30cm前後のPC・1mクラスも普通になったTVの大画面などサイズや解像度も多様化しています。このなかで一番普及しているスマホなどの小さい画面で引き立つようにするには、必然的に彩度の高い処理になるのは至極当然の流れでしょうか。一方大画面となるとより多段階の再現性が求められることからよりシビアな処理が必要になってきます。

□50インチTV 13インチPC 5インチスマホ

後処理の度合いについて話題になることがあるようですが、入り口の違いである用途と対象による違いが大きいようです。極端なたとえとして「化粧」にあてはめてはどうだろうか。化粧は、場所に応じて処置や手法が変わると思います。<フォーマル・繁華街・コミケサークル・歌舞伎・・> むしろ集まるメンバーでも変わってくるかもしれません。よりきれいに見せたいの根底にありますが、しみシワを消し・見栄え良く・重ね塗り・・・アフターを見ると技術と経験に圧倒されてしまいます。もちろん基礎がしっかりしていれば、どこでもノーメイク(基礎化粧)でもOKかもしれませんね。
写真の処理も同じように感じます。
大量の写真を一度に閲覧できるサイト内では、閲覧者の目に留まるには必然的に彩度が優先になるでしょうし、出力先の環境のほか、集まる場所での度合いの差が大きいと思われます。一方、高画素の大画面ではじっくり見ても安心できる階調や感覚が優先されるでしょう。
プリントの場合もサイズや展示場所によって、求められる処理は変わってきます。よりよく見てもらいたいと誰もが思うところですが、環境に応じた出力することを考慮すべきと考えます。常々作品は、自分を見てもらうものと思っているので過度な化粧はせずに(そもそも上手くない)まずは基礎を固め、基本はナチュラルメイクで 時によっては上品に といったところでしょうか。

日本星景写真協会の巡回展は、すべてクリスタルプリントによる全紙サイズとしています。星々の輝きが会場内のライティングで反射してより美しく見せることができることから第1回目の巡回展より一貫して採用し、各会場で好評いただいておりました。星空の風景として、じっくり見ていただくことを前提に過多な処理や複数枚処理はせずに、自然の風景を感じて見ていただけるよう統一した形態としています。
2020年2月22日福井展からスタートし4月以降は東京・長野など全国を巡回します。お近くの方はぜひお立ち寄りください。

参考
※1 第40回SSP展2019-2020 出品作
※2 2020.1.18より3.19「星景で巡る日本列島」写真展 倉敷科学センター web
※3 第4回ASPJ巡回展 出品作

<プロフィール>
著者:中川 達夫(なかがわ たつお)
日本星景写真協会会長 日本自然科学写真協会(SSP)
2010年新宿(コニカミノルタプラザ)等で中判カメラによる山岳星景の個展開催
2012年公開映画 日本列島いきものたちの物語 星景シーン担当
2012年星景動画DVD ほかNHK自然科学番組などに星景動画の素材提供
2019 NHK BS8K「写真家たちの挑戦 新絶景タイムスケイプ 中川達夫 月明かり星明かり」
現在は全国各地で8K星景動画素材を撮影。1シーン1000コマを目安としているので、結果的に約3時間かかるのはフィルム時と変わっていない。撮影中は誰も来ない(であろう)場所で、動かず照らさずにひっそり星を眺めている。
webサイト tsurugi-dake.com