2019年11月号「星空記念写真のすすめ」

星を見るという趣味にはまってから今年で10年目になります。学生時代は晴れればいつでも、社会人になってからも新月期ごとに1~2回は星空のきれいな場所へ出かけていますが、思い返せば今までソロ(1人)遠征をしたことは一度もありませんでした。

先月のある夜、仕事終わりに近場へ星見に出かけたときの記念写真です。車2台、5人での賑やかな星見でした。

アメリカ横断ドライブ旅行の一コマ、人工光の少ない地域で標高は3000mオーバー。あたりが真っ暗で何も見えなかったこと、ホテルに戻ってからのふわふわベッドの気持ちよさを思い出します。暗いですが私を含め3人写っています。

星空の楽しみ方は人それぞれで、「撮る」「観る」「測る」などがあると思いますが、私は星空の元で「過ごす」ことに一番の喜びを感じています。あわただしい都会の生活から離れ、わずかな時間であったとしても星の煌めきと静寂のなかでリラックスできることが本当に幸せで、そこには同じ趣味を持つ仲間たちも一緒にいてほしいと思うのです。元々は学生時代に交通費を割り勘にするために多数人で星見に行っていたのが、今ではすっかり逆になってしまい、同行者がいてこそ星見だと感じるようになってしまいました。日ごろ1人で過ごすことが多い私としては不思議なことなのですが、私にとって星空は1人で眺めるものではなく、必ず誰かと一緒に楽しむものなのです。

都会に住む私にとって大抵の場合、星を見ることと往復数時間の車移動は切り離せないものです。くだらない・時には真剣な話をしながら星見に出かける夕方のドライブも、皆が寝て静かになった早朝の帰りの運転も、道中に立ち寄るコンビニで買ったお菓子を分け合うことも、凍てついた空気にメガネがくもった山の上の露天風呂も、星を見に行くというイベントで起こることのすべてが私にとって大切な思い出になっています。時には行きの道中が楽しすぎて、向かう先が曇りであってもいいや…と思えることさえあります。もちろん、本当に曇られてしまうのはイヤなのですが。

天体望遠鏡を備えた「星見台」へ出かけたときの写真。この日は夜空が青みがかっているように思え、薄明前に高度を上げる夏の天の川が粒状感を伴って見えていました。肉眼で見た景色に近づけるように画像処理を行っています。

真冬の長野県にて。東の空からベガが昇ってくるのに気づくと、これから春が、そして夏がやってくるのだという静かな高揚感を覚えます。近くに夜間照明があったので暗順応が崩れ、星空は黒く引き締まって見えていました。

そこで過ごした楽しい時間を記録に残したいという思いから、私は星見に出かけるたびに人物入りの星空写真を撮っています。ただし、構図や時間帯、人物の配置とポーズ等を厳密に調整して「作品」を仕上げるつもりで撮ることはほとんどありません。星空を楽しんでいる友人に一声かけてからありのままの姿を写したり、皆で集まって集合写真を撮ったり…たまには星空自撮りを試みることもありますが、どれも人様にお見せするためのものではなく、その当事者たちが後で写真を見返した時に当時の記憶を呼び起せるような、そんな「私的」な星空記念写真なのです。

11月のある夜の星見にて。昇ってくる冬の星空を撮影している友人を、その後ろから撮影したもの(※盗撮ではありません!)

大人数で星見旅行に行った時の思い出写真。宿の前で撮った集合写真。

謎のポージングを決める私たち。数十秒の露光中、ポースを決めたまま静止する私たちの間をさわやかな風が吹き抜けていきます。傍から見ればシュールな光景ですが、夜風に意識を向けつつ静かな気持ちで過ごせるこの数十秒間は、本人(被写体)たちにとっては大変貴重なものです。

星空自撮りの例。遠くの銀河を撮影中の天体望遠鏡にそうっと近づいて撮ったものです。

星を撮りたいから出かけるのではなく、星を見に行ったら楽しかったから一枚記念に…という気持ちで、これまでカメラを星空に向けてこなかった方も気軽に星空記念写真にチャレンジしてみていただきたいと思っています。写真術的な上手い/下手だとかノイズが多いとか、「作品」に仕上げるための細かいことは全く気にする必要はないと思います。星空記念写真の本質は「楽しいと感じたときに撮ること」で、その時に星空を楽しんでいれば、撮れた写真を後で見返したときも、きっと当時の思い出が鮮明によみがえってくることでしょう。

偉そうなことを述べてはみたものの、まだまだ諸先輩方には遠く及ばない若輩者です。今回コラム執筆の機会をいただけたことに感謝いたします。今後もまずは私自身が星空を楽しみ続け、星空を楽しむ人の輪がひろがることを願い、少しでもその力になれれば嬉しく思います。

<プロフィール>
著者:新宿 健(しんじゅく けん) 神奈川県在住
天体望遠鏡販売店・スターベース東京にてお客様が星空を楽しむためのお手伝いを行っている社会人3年目の25歳。夢は「星おじさん」になること。