小さい頃から星好きだった私は、小学生の頃に初めて見た天文雑誌の「読者の天体写真コーナー」が大好きでした。
当時は今のデジタル写真とは違い低感度によるフィルム写真でしたので、淡い光を長時間露光で撮影した写真が多かったと思います。
尊敬する先輩方が技術と情熱を費やして頑張っておられましたが、デジタル技術の進歩は目を見張るもので星雲・星団や惑星などの写真は現代の作品と比較するとかなり見劣りしてしまうと思います(もちろん当時の方々の努力はむしろ今以上のものであり、決してそれを否定するつもりはございません)。
そんな中、今の写真と比較しても遜色無いどころか輝きを放つ写真がありました。それはリバーサル(スライド)フィルムなどによる星座の軌跡写真です。
当時は「星景写真」という言葉はありませんでしたが、長時間露光による景色と星座の写真は星の色が良く出ていて本当に美しい写真が多くあったのを覚えています。「いつかはこんな写真を撮ってみたいな。」と少年時代の私は何となく思っていました。
時は流れ21世紀となって少年も中年になり、フィルムカメラからデジタルカメラへと写真の主流が移り変わってきました。
デジタルカメラでは高感度が使えるようになり、星と風景の写真は露出時間30秒以下で星を点像にする写真がメインとなってきました。
また、そんな時に登場したのが「比較明合成」という手法です。すなわち同じ構図で固定して数秒~数十秒の露出時間で連続撮影し、その最も明るい部分を合成することで明るい場所でも星の軌跡が写せるというものです。都会でも使えるこの手法は今に至るまで大流行し、いつの間にか空が暗い場所でも使われるようになってきました。
しかし私はこの種の写真に違和感を抱くようになってきてしまいました。
よく見るとほとんどの写真は、星の色が真っ白で色がありません。少年時代に見た星の軌跡写真とはまずこれが違うと思いました。
また好みの問題ですが、やたらと星が多かったりノイズが乗って画質が悪い写真も増えてきたように思います(上手に処理されている方ももちろんいらっしゃいます)。
どうにかして昔見た様な写真が撮りたい・・・そう考えた私はデジタルでもフィルムと同じ撮影方法を試してみました。
つまり空が暗い場所で、一枚の写真を低感度・長時間で撮影するわけです。
露出の計算は割と簡単で、例えばISO 3200 60秒で試し撮りして、ヒストグラム(お使いのデジタルカメラの操作方法参照)が左右に偏らない絞り値を探します。適正な絞り値を探せたなら、この場合ISO 100で約30分の露出時間が可能となるわけです。
拙作ではありますが、その一部をご覧ください。
長秒一枚撮りの王様はオリオン座です。
2016年10月 ニセコアンヌプリ山頂にて撮影 1800秒露光
左上の赤色超巨星ベテルギウスのオレンジが目を引きます。赤色に強いカメラを使うと、オリオン大星雲(M42)のピンクをとても鮮やかに写すことができます。
北天の日周運動も向いています。カシオペア座付近の天の川を埋もれずに描写することができます。
おとめ座もとても色が美しい星座です。明るい星は木星です。
2017年5月 寿都町にて撮影 1260秒露光
はくちょう座もなかなか綺麗ですよ。
2016年9月 オロフレ峠にて撮影 1800秒露光
撮影する上で気を付けなければいけないのは、レンズの夜露付着に気を付けること。これはフィルムでの撮影と同様で、レンズにヒーターを巻き付けることで対処します(地域によるかも知れませんが、私の経験では夏~秋が曇りやすくなると感じます)。
またブレも大敵なので、撮影中はカメラに近づかない方が無難です。車のヘッドライト等による一時的な明かりは、低感度では案外影響は少ないと思います。
またデジタル特有ですが、長秒ではホットピクセルと呼ばれる輝点ノイズが発生します。気温が高い時期になるとかなり顕著です。
対応策としては一長一短ありますが、長秒時ノイズ低減をオンにする、または撮影後にダーク減算すると言う方法で除去することが出来ます(技術的なご質問はお問い合わせ頂ければと思います)。
低感度でじっくり炙る長秒一枚撮りは、本当に鮮やかで繊細な美しさがあります。
ぜひ一度皆さんもチャレンジしてほしいと思います。
著者:西澤 政芳(にしざわ まさよし)
日本星景写真協会 準会員
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