2022年12月号「星を愛でる星界写真」

皆さん、初めまして。星界写真家の小笠原裕司です。石原大稔(だいとしぃ)さんからお声がけいただき、このコラムに登場させていただく機会を得ました。

自宅のある八王子を中心に三浦半島、伊豆半島、富士五湖、八ヶ岳方面に出かけて星を眺めたり写真を撮ったりしています。

その時その場所で感動したことを写真でも表現できれば素敵だし、観ていただいた方にもれが伝わって、空を見上げる人が増えるといいな、、、といつも思っています。

絶景といえるような星景写真を目指しておられる星景写真家の方々が多いと存じますが、わたしは身近だけれど記憶に残る、自分の中での物語となる光景に出会えれば幸せなのです。さらに写真という記録手段で残せれば自分にとって最高の思い出となり、周りの方々にも身近な星空のすばらしさを伝える手段のひとつになると信じています。それが星の写真を撮る一番の理由です。

『ダブル月光紅富士』

月が富士山の冠雪を照らす条件を調べて精進湖で一晩中撮影していました。夜半過ぎたころ、ふと目を上げると富士が何となく赤っぽく見えました。インターバル撮影していたのであとで確認すると、わずか数分ですが沈む月の光で冠雪がうっすら赤く染まっていました。月あかりで紅富士が出現するとは予想しておらず、偶然とはいえ狙った先に奇跡が待っていました。しかも風がぴたりと治まって湖面にも逆さ紅富士…こんな出会いに感動するのが生き甲斐です。

『早春の蓑掛け岩』

南伊豆の蓑掛け岩で昇ってくるさそり座を待っていました。ライブコンポジット(カメラ内比較明合成)撮影していると。漁船が水平線あたりをウロウロし始めました。ああ、このショットは失敗だなと思いましたが、カメラの背面モニターを眺めていると、だんだん水平線が漁船の明かりで一直線になってくるではありませんか。とうとう画面の左右一杯に漁船が移動し、そこで撮影を終えました。その時は失敗だと思いましたが、数日後に見直すとこれまでに見たことのない構図になっている、二度と撮れないかな、と思い直した作品です。

『旧安房埼灯台』

城ヶ島の安房埼(あわさき)灯台が数年前に移設されましたが、その前に撮影した旧安房埼灯台と星空です。雲が湧いてきて完璧な写真とはなりませんでしたが、これまた雲の動きが不思議な構図を生み出しており、私のお気に入りの作品となりました。

『富士の裾野を月が転がる』

夕陽に赤く染まった富士の裾野、そこから満月に近い月が昇ってきたのですが、ちょうど外縁同士が接したときは、まるで転げ落ちていく途中のようでつい笑ってしまいました。これは田貫湖のキャンプ場あたりからの撮影で、まわりは夕食の準備でだれも空を見上げていません。「見て見て、きれいだよ」と声かけたくなった瞬間でした。

『夕映えに沈みゆく金星』

夕陽に赤く染まった雲と金星をライブコンポジット撮影していたら、みるみる不思議な画像になっていきました。比較明合成の途中経過を観察しながら撮影しているので、構図や色合いの変化を確認してシャッターを閉じました。RAW現像ですこしコントラストや彩度を上げていますが、基本的には現象の時間的変化がそのままが写っています。自然が織りなす不思議なパフォーマンスのお陰で、シンプルですが想像を超えた作品になりました。

『新たなチャレンジ』

これからは人物も生物も星界の一部ととらえ、作品に取り込んでいこうと思っています。9月に開催した個展『星を愛でる』においても、モデル二人にお願いして星空とのコラボ作品にチャレンジしました。もちろん、まだ試行錯誤を始めたところですから完成度ということではなく、より広い視野に立った星界写真の可能性を追求する習作です。こちらは温かい目で見守っていただけると幸いです。

私がこれから撮ってみたい写真は、風景や星景に限定されない地球や人や生物含めた宇宙全体を『星界写真』と名付けて表現するものです。大それた夢かもしれませんが、それを世界中で分かち合い、地球上での争いごとや悩みごとを空や自然を眺めることで解消できるきっかけになるような写真を撮りたいと夢見ています。

小笠原 裕司 (おがさわら ゆうじ):星界写真家
東京都 八王子市在住
所属 日本自然科学写真協会(SSP)会員

資格 フォトマスターEX(星景写真)取得
略歴 1981年からカメラメーカーにおいてフィルムカメラやデジタル一眼レフなどの開発設計業務に従事。プロサポートやギャラリーの統括を経てショールームにてお客様対応スタッフを歴任し、2022年7月に65歳で定年退職。そして9月、小笠原裕司写真展『星を愛(め)でる』で星界写真家としてデビュー。新しい撮影技法を取り入れた身近だが誰も見たことのない星の写真を模索中。