2023年10月号「花のある星空風景」

私の星空風景写真撮影の根底にある思いは、美しい星空を守りたいという願いと自然愛護です。星空の写真がきっかけで、美しい星空に興味をもち、自然を守りたいと思えるような感動的な写真を撮りたいと思っています。とは言っても人目を引くためにライトを当てたり、周りの環境に変化を与えたりする撮影はNG。その場の情景を大切にした一枚にしたいと思っています。しかし、多くの人に目を通してもらわなければその思いは伝わりません。ここでは、こうした思いを込めて撮影してきた花のある星空風景を紹介します。

桜のある星空風景

デジタルカメラで星景写真を撮り始めたのは、2012年に星景ブログの先駆者である前田徳彦氏お勧めのキヤノン5DⅡを購入してからです。そのころの撮影は、星空がメインで、おまけに地上景色を組み合わせて星空風景写真としていました。花を入れた撮影は、前景に桜を入れて撮ったら、映えた人目につく写真になるだろうという安易な気持ちでした。

「越代のさくら」5月 福島

福島県の一本桜は、よく整備されていて、どこも人気の観光スポットです。2014年4月当時の「越代のさくら」は、その中でもまだマイナーな被写体で、満開時の昼間は、あまり人が訪れていませんでした。

日没後、月明かりの中に浮かぶ雄大な桜と春の星座の美しさに圧倒されました。この後の夏の大三角と天の川がのぼってくる時間が楽しみでなりませんでした。しかし、月が大きく傾き空が暗くなって星が主役になると辺りが一変しました。次々とカメラを抱えた方々が訪れ、桜は、カメラマンに囲まれます。何の予告もなく、撮影するシャッター音の後にLEDライトでグルグルと桜にセルフライトアップがはじまりました。そのタイミングを待って堰を切るように、いろいろな方向から、シャッターごとのセルフライトアップがはじまりました。夜桜撮影ブームの到来の春でした。

◎タイムラプス「越代の桜と星空」5月 福島県

天の川に設定を合わせた私の画像は、白色LEDライトに照らされて桜はマゼンダ色が転び一部が白トビしていました。このタイムラプスでは、作成時に残像効果を入れて、セルフライトアップの違和感を軽減しています。

花を入れた星空撮影

夜の桜の撮影は、インスタグラムが流行る前でも星景写真家には厳しい環境でした。サーチライトのような強力な照明を複数持ち込んで撮影する猛者も現れました。インスタ映えという言葉ができてからは、ますます厳しくなりました。自分の思いをかなえる撮影には、他の方の影響を受けない場所で撮影しなければなりません。そこで、花を交えた星空の撮影地に、観光化の進んでいない場所や他の方の影響を受けにくい雄大な景色に咲く花々の撮れる場所を探すようになりました。

「菜の花畑と鳥海山」4月 秋田県

鳥海山の雪景色(冬)、前景の菜の花(春)、さそり座といて座の天の川(夏)と3つのシーズンを入れた星空景色を撮りたいと何度も通って撮った星空です。宵のうちは、たくさんの撮影者が暗闇の中で黙々と撮影していましたが、夜更けになって地元のインスタ仲間と名乗るグループが大きな照明具を持ち込んで撮影にきました。撮影時間や撮影場所の割り振りのお願いをしましたが、「空は誰のものでもない、自由にとる」と断られてしまいました。多くの撮影者がこれで帰ってしまいましたが、私は花畑の隅に移動して撮影を続けました。それが逆に功を奏したのか、月刊天文ガイド誌で初めて最優秀作品として選んでいただきました。

◎タイムラプス「菜の花畑の天の川」

のちにSNSで見かけた前述の地元の著名な写真家の作品、違和感があったので自分の写真と比べてみました。南の星空と地上の花との境界の処理がうまくいかなかったのでしょうか、スタック処理した南の星空を実際より下げて、地上部分の後ろに配置した実際の星空と違う作品になっていました。

「鳥海山とハナショウブ」6月 秋田県

ここは、鳥海山の登山口の中では車のアクセスの不便な場所です。月明かりの残る湿原から、パンフォーカスを生かして、月明かりに照らされたハナショウブ、うしろに鳥海山を入れて撮影しました。絶えず雲が流れていましたが、高い透明度のおかげで月明かりの空の天の川が写ってくれました。

「水芭蕉と乗鞍岳」6月 長野県

夕暮れ前、一人で熊に怯えながら準備をしていました。日没後、男性が一名撮影の下見に訪れました。その方に撮影計画を聞くと、水芭蕉をライトアップして撮影したいとのことでした。私の撮影スタイルを説明して、薄明が終わる21時まで(30分ほど)はライトを使わないで撮影させてほしいとお願いしました。約束の時間の最後のショット。すでに暗夜でしたが、長めの露光により白い水芭蕉を浮かび上がらせて撮ることができました。その方も私のカメラの設定を聞いて撮影をして、いつもと違うものが撮れたと喜んでいただけました。
撮影計画で天の川と共に写すためにソフトフィルターを外していたので、明るい星の少ない春の星々が目立たなくなってしまいました。もし、長時間露出もしていたらと今更後悔しています。

「天空のそば畑」8月 福島県

星空の町を目指す町や観光協会を画像や映像の提供で支援をしています。南会津町もその一つで、観光協会のパンフレットや地元のホテルなどに星空写真を提供しています。ここは、高杖スキー場の近くにある、かつてゴルフ場だったというそば畑です。今は、「天空のそば畑」として観光資源としています。

関東の星空のメッカ「戦場ヶ原」より、さらに山を越えた素晴らしい星空です。この夜は、低い雲が下の集落の灯りを反射してそば畑を照らしていました。花の季節はそば畑をライトアップしています。その光は下に向き、21時には終了するので、夜はしっかりと星空撮影ができます。

花を主題にしての撮影

九州の星景写真家、松本篤さんの月刊星ナビ2019年9月号掲載の「蛍の光とサソリ」に感銘を受けて、その撮影方法をまねてはじめた花星景です。

「ロウバイと冬の大三角」1月 埼玉県

黄色い花びらが左奥からの光害に透かされています。冬の一等星は、色がカラフルなので、とても映えます。こうした撮影では、撮影地の景観より花の特性や月や光害などの環境に注意して場所や時間を選んでいます。

「キスゲと天の川」7月 群馬県

ニッコウキスゲの有名地なので、たくさんの撮影者が訪れていました。近くに明るい登山用ヘッドライトで手元を操作している方がいたので、天文用のヘッドライトを貸して差し上げました。人が多くても遊歩道から出て撮影する方がいなかったので、こうした撮影をすることができました。

「月夜の向日葵」8月 福島県

満開となったヒマワリは、昼夜にかかわらず花を東に向けて咲いています。東からのぼる二十六夜月に照らされるのを待って撮影しました。星の色を強調するために、前景のヒマワリにピントを合わせて星をぼかしています。花のある星空の撮影では、月齢の他に花の生態も調べておく必要がありました。

「コスモスと星空」9月 長野県

長い見ごろがあるように思えるコスモスですが、撮影に適するのは意外と短く、その期間は数日です。

国道245号線の長野県の通称「コスモス街道」とその山の上にある内山牧場の「大コスモス園」は、別の時期に満開となります。こちらのような満開前のコスモスも可憐でホッとします。これは、はじめて玉ボケに挑戦したものです。雑誌の寸評で、もっと花に寄って撮影するようにと指摘されました。その後、より花にポイントを置いて撮影するようになりました。こうしてはっきりと指摘される雑誌への投稿は、撮影技術のステップアップに役立ちました。

おわりに

近頃は、星空風景写真の撮影の敷居を下げようとスマホを使った星空撮影に取り組んでいます。自分の勤める科学館でも、年に数回、プラネタリウムを使ってスマホでの星空撮影教室を実施しています。星空の写真を見るだけでなく、実際に撮ることで、より多くの方が強く美しい星空の保護に気持ちを向けてくれればと願っています。

◎タイムラプス再生リスト「星空と花のある風景」

-プロフィール-
著者:小林幹也(こばやしみきや)SNSではspitzchu☆
埼玉県在住 日本星景写真協会会員
Twitter: https://twitter.com/spitzchu
地元のプラネタリウムで星空解説や星空写真教室をしたり、TVや映画に星空動画を提供したりしています。近頃は、スマホで星空を撮影(#スマホ星景)してTwitterにアップしています。