2023年11月号「北斎が見た星空を想う」

<はじめに>

はじめまして。静岡県沼津市在住で星景写真を楽しんでいる露木と申します。
私の作品の発表の場は、普段はSNS、それから天文雑誌(月刊星ナビ、月刊天文ガイド)の読者ページへの応募です。最近、雑誌に掲載していただくことが多くなったことから、このコラムへの執筆の機会を頂けたと思っています。今回は私の作品に絡めて撮影スタイルなどを紹介させていただきたく、お付き合いをお願いします。

<星景写真にハマるまで>

写真歴は長く、学生時代はモノクロフィルム撮影がメインで、自家現像する楽しみを覚えました。当時、スポーツ新聞社の地方支局でアルバイトをしており、スポーツ写真を数多く撮影、現像する機会にも恵まれました。
社会人になってからは、スキューバダイビングを本格的に始め、当時出始めたコンパクトデジカメを、カスタム製作の水中ハウジングに入れて水中生物等の写真を撮るようになり、デジカメの急速な進歩に合わせて毎年のようにカメラとハウジングを更新していました。
赤の色味が極端に減る水中の自然光環境でRAW撮影し、現像時に自然な色味を出す処理をする経験は、後の星景写真の現像にも通じるものがありました。
並行して、小型飛行機のアクロバット飛行の動画撮影を長く続けており、現在もエアレース世界チャンピオン・室屋義秀さんのエアショーチームで公式動画を担当しています。
そんな私ですが、年齢を重ねて50歳になる頃、SNS上で夕暮れの駿河湾から臨む富士山の写真を見て感動し、それまでは当たり前の風景で撮影対象として見ていなかった富士山にカメラを向けるようになりました。
富士山の撮影を始めると、人とは違う写真を撮りたくなります。場所を変えて地質にフォーカスしたり、時間帯を変えたり、色々試しているうちに、星空がある富士山の風景に強い魅力を感じるようになり、今では、普段から星景撮影をメインに休日の行動プランを立てるようになりました。

<作品の紹介>

「夏富士」 2021年8月 静岡県・宝永山にて fisheye11mmレンズ・一枚撮り

夏山シーズンに宝永登山をしての撮影でした。フィッシュアイレンズを使って、天の川と富士山を上下対象に配置しました。

「RUNWAY36」 2022年1月 静岡県・富士川滑空場にて 24mm相当・比較明合成 

飛行機撮影の繋がりから、免許取得には至りませんでしたが、グライダーの操縦訓練をしていました。その頃に幾度も離着陸をした思い出の滑走路です。当時は、ここで星景写真を撮る事になるとは思いもよりませんでしたが、富士山と滑走路が北側に見渡せる絶好の撮影ポイントだと思いついて、何度かトライした場所です。
この写真は、北天の星の円弧、滑走路、富士の稜線の幾何学的な面白さを狙いました。

「雪の宿場と大三角形」2022年2月 福島県・大内宿にて fisheye11mmレンズ・一枚撮り

飛行機撮影の縁で、以前から頻繁に福島県を訪れていますが、星景撮影を始めると自然な流れで雪景色と星空もテーマになり、雪を求めて毎年福島に出掛けています。
この時は、雪が降り積もった大内宿で短時間ながら星空を見渡せる幸運に恵まれました。高台の木立の中で、冬の星々が見え隠れする様子を楽しみながらの撮影でした。

「高原と銀河」 2022年5月 静岡県・西伊豆スカイラインにて 27mm相当・一枚撮り

今でこそ天の川が珍しくなくなった私ですが、初めて天の川を認識して撮影をしたのは2017年のこの場所でした。天気さえ良ければ、自宅から遠くない西伊豆スカイラインで撮れることがわかり、春から夏の雲や霞で富士山が見えることが少ない期間は、平日でも夜の天気が良くなると急遽出動して撮影するようになりました。
この写真は、予報を信じて出動し、現地到着時の強風と霧が晴れ、肉眼でも天の川がハッキリ見えるコンディションになったときです。達磨山の中腹まで登り、スカイラインと登山道の向こうに天の川をフレーミングしました。

「北天を望む」 2022年10月 静岡県・雲見浅間神社にて 20mm相当・比較明合成

古事記に記された伝説が伝わる神社です。ここで富士山を褒めるとケガをするという言い伝えがあるため、遠くに見える富士山を褒める気持ちを封印しての撮影でした。
狭い展望台の限られた撮影ポジションの中で、グルグルの中心の北極星と神社とを上下対称にフレーミングしながら、「これは良い感じ」と一人ほくそ笑みながらの撮影でした。富士山は褒めてませんよ。

「富士と彗星」 2023年1月 静岡県・山宮浅間神社にて 70mm相当・星空と地上を合成

山宮浅間神社には本殿の代わりに富士山を拝む遙拝所があり、玉垣の中には、祭壇として使うために設置された石列が保護されています。この夜は、ZTF彗星が昇る時間を見計らって、富士山と彗星を遙拝させて頂きました。
額縁の中に富士山が上手く収まったと思う1枚ですが、如何でしょうか?

「雲上の銀河」 2023年5月 山梨県・新道峠にて 20mm・一枚撮り

霧に包まれ周囲が真っ白になった撮影地で、濡れて待つこと1時間半。頭上にうっすら星が見え始め、バッグから機材を取り出している間に天の川と富士山が現れていました。再び霧に包まれるまで、夢を見たかのような5分間、夢中でシャッターを切りました。

「海に続く道」 2023年7月 鹿児島県・徳之島にて 14mm・一枚撮り

毎年のようにダイビングショップ主催の南国ダイビングツアーに参加していますが、近年は日程計画段階から満月期を外すようにお願いし、潜水道具に加えて星空撮影機材一式を島に持ち込み、夜の部の楽しみとして星空撮影をしています。
今年の徳之島ツアーでは、Googleストリートビューであらかじめロケハンしてあった海沿いのサトウキビ畑に行き、クルマを降りると、まさに満天の星という星空を満喫できました。

「富士山とペルセ群流星」 2023年8月 静岡県・西臼塚にて 14mm・一枚撮り

極大の三日前というタイミングで、流星にはあまり期待できなかったことから、空振りを見越して富士山と冬の天の川が見渡せる場所での撮影でした。富士山と星空は期待通りの美しさで、小さめながら流星も一緒に捉らえることができました。

「放置ワゴニアと火球」 2023年8月 静岡県・富士山斜面にて 14mm・一枚撮り

一部では有名な、富士山中腹に長年放置されているジープ・ワゴニア。ここで大きな流星が撮れたら絵になるはずと思い、2022年からトライしていました。
2023年は、台風7号接近前のラストチャンスと思われた、ペルセウス座流星群極大の二日前に登山をしての撮影でした。この夜の流星の数はまだ多くなかったのですが、薄明が始まってからのタイミングで放置ワゴニアと富士山頂に向かって落ちた火球を捉えることが出来ました。

<撮影機材と技法>

星景撮影を始めた当初はマイクロフォーサーズカメラを使用していましたが、現在は、35mmフルフレームのPanasonic・LUMIX・DC-S1をメインにしています。SIGMAのレンズを使用したかったのと、マイクロフォーサーズでLUMIXに好感触を持っていたための選択です。S1用のレンズは、SIGMAの14-24mmズームから始め、TTArtisanの11mmFisheyeを足し、現在は、SIGMAの20mm f1.4と、14mm f1.4という明るい単焦点を主に使っています。
赤道儀を使わない固定撮影オンリーのため、ズームレンズ使用時は感度をISO12800まで上げ、ノイズ対策でsequatorのスタック処理をよく行っていましたが、明るいレンズの導入後はISO3200での1枚撮りにすることが多くなりました。
星空と地上風景の明暗差が大きい場合、例えば新月で地上が暗すぎる場合には、露光の途中まで空の部分を黒い布でマスクすることで地上の露光を長くし、後処理しやすい1枚撮りのRAWファイルを得るようにしています。
現像処理は、Adobeより古くからあるSILKYPIXを水中写真の現像も含めて愛用していますが、1枚撮りの処理にはとても使いやすいソフトだと思います。最近のバージョンでは比較明合成も内部でできるようになり、北天の写真の処理にも重宝しています。

<おわりに>

北斎の富嶽三十六景が好きで、作品展を見に行ったり、自室に複刻版画を飾ったりしています。
北斎の作品で星空が描かれたものは残念ながら僅かしかありませんが、もしも、北斎が星空風景をテーマに作品を作るとしたら、何をモチーフにどんな構図にするだろうかと想像するのが楽しく、自分の星景写真にも北斎マインドが少しは入っているのかなと勝手に思っています。
今回、このコラムの執筆を通してもっと北斎マインドを強くしたいと思い直しました。良い機会を頂けたことに感謝いたします。

<プロフィール>
著者:露木 孝範(つゆき たかのり)
静岡県沼津市在住 Facebook星景写真部所属
ホームページ http://www.tsuyuki.tv/
Facebook https://www.facebook.com/takanori.tsuyuki/
Instagram https://www.instagram.com/tsuyukitv/

受賞歴
惑星地球フォトコンテスト:日本地質学会創立125周年記念賞(第9回)、最優秀賞(第13回)
月刊星ナビ:星ナビギャラリー掲載回数 12回
月刊天文ガイド:読者の天体写真掲載回数 3回