2024年7月11日、野辺山にあるヤマナシの樹が倒木したというニュースが入ってきました。発信もとの「ペンションさんかくじょうぎ」の情報によると前夜の強風の影響でどうやら倒れたとのことでした。
野辺山のヤマナシの樹についてはこの場所で撮影するきっかけを与えてくれたライナスさんこと武井伸吾さんや、そしてライフワークでこの樹を撮られていた本協会の有賀哲夫さんには遠く及ばないものの私にとって思い入れのある樹でしたので今回コラムの記事とさせていただきます。
1.出会い
最初の出会いは2005年1月9日です。マックホルツ彗星の撮影のため川上村まで遠征した翌朝、野辺山駅前に車を停めて仮眠をしていた時、同じように撮影で野辺山周辺に来ていた星仲間の武井伸吾さんに声をかけられました。そしてその際に「この近くに野辺山で有名なヤマナシの樹がある」と教えてもらって帰りがけに立ち寄ったのが「ヤマナシの樹」との出会いです。
【初めて訪れた時の雄姿 -2005.01.09-】 ※この時は木を囲む柵はまだありませんでした
何もない農道のど真ん中に聳え立つヤマナシの樹は他の樹と比べて枝っぷりも立派で存在感がありました。その時はここで星景写真を撮るには至らなかったのですが、後日この樹を題材にした武井さんの作品を見て、2007年頃からこの樹を対象とした星景写真を撮り始めるに至りました。
【野辺山に降る星達 -2007.02-】 ヒノサワさんちのアストロカメラにて撮影
2.撮影最盛期
この樹を撮り始めた時、メイン機材はフィルムの中判カメラでした。作品の出来具合は後日ラボで現像が上がるまでわかりませんでしたが、その際のドキドキ感は今となっては貴重な体験でした。
【 風・月・雪 -2007.12.24-】
またこのヤマナシの樹から東側に少し歩いたところに通称「六つ子の樹」と呼ばれる樹々もあり、それと合わせてこの場所は冬から春先にかけての撮影ポイントとなりました。
【夏待ちの樹 -2009.03.14-】
【夏を孕む樹 -2009.02.22-】
3.撮影会の聖地として
星景写真の撮影は基本的には単独で行動することがほとんどですが、この頃は仲間内で行動することが多々あり撮影会を企画する際は夏の乗鞍、冬の野辺山が定番となり、この場所には撮影仲間と頻繁に通ったものでした。
【月光下のエアーバレーボール -2014.01.24-】 撮影仲間と記念撮影
4.巡りあわせ
私事で恐縮でございますが、人生のパートナーと巡り合ったのもこのヤマナシの樹などの星景写真がきっかけとなりました。この場所でブライダルフォトの撮影をしたり、写真「冬のファンタジー」でスキーの灯りと樹が交差する場所に建つ清里高原ホテルで結婚式を挙げることになるとは夢にも思わなかったです。さらに妻の両親も関西からここから車で20分足らずの八ヶ岳南麓に移住したことでこの場所がさらに身近な場所となりました(笑)。
またこの樹から歩いて数分のところに多数のペンションがあり、その中のひとつである「さんかくじょうぎ」は妻と知り合ったのちの定番宿泊先となりました。それのことがきっかけでホームページに作品を提供しております。またペンションに飾ってもらっていたポストカードを通じて、学芸大学駅前にある喫茶「平均律」で個展をやることになったのもヤマナシの樹が巡り合わせてくれたとのでは?と思っております。
【冬のファンタジー -2010.01.04-】
【ブライダルフォトより -2012.05- 】photo by Tamiko Uchida
【金環婚jump!-2012.05.21-】満開のヤマナシの樹の下で金環日食を見たのち入籍しました
5.晩年は..
ヤマナシの樹の撮影ポイントも2011年に六つ子の樹が一部伐採(その後すべて伐採)されたことや、この樹自体も年々葉をつけない枝が目立ち、また天頂付近の枝が崩れ始めたこともあり、積極的にこの地で星景写真を撮ることは減ってしまいました。それでも野辺山付近に訪れた際にはできるだけ足を延ばしてこの場所に立ち寄るようにしておりました。
【天頂付近の枝枯れが進行中 -2016.01.24-】
新しい機材を購入した際や、なんらかの記念となるタイミングでここで写真を撮りました。
【リトルプラネット風 -2017.03.20-】theta Sにて撮影
【春を待つ -2020.03.19-】頭頂部の枝がめっきり減りました
【結婚10周年記念撮影 -2022.05.22-】
【ヤマナシの樹とともに… -2023.01.09】 新車記念フォト
6.別れのとき
そしてヤマナシの樹と別れとなったのは今年の2月12日。「野辺山観測所星空撮影イベント2024冬」の参加した後、このヤマナシの樹と出会った時と同じように野辺山駅前で仮眠する前にふと立ち寄りました。数日前に降った雪の影響で樹の下の農道に侵入できず、ペンションさんかくじょうぎ道沿いに車を停め、半ばラッセル気味に前進しながら樹の近くまで行き数ショット撮影したのが最後の邂逅となりました。
【雪上のヤマナシの樹と沈む冬のダイヤモンド -2024.02.12-】
それから数か月後の7月11日、ペンションさんかくじょうぎのお知らせでこのヤマナシの樹が前日の強風のため倒木したことを知りました。本当に残念でなりません…
樹齢250年といわれるヤマナシの樹、私が出会ったのは最後の20年弱でしたがこの樹を通じてたくさんの出会いがあり、そしてたくさんの思い出を作ることができました。天命を全うしたヤマナシの樹のことはこれまで撮った写真や、皆さんの思い出の中で生き続けていると思っております。本当にお疲れさま、そしてありがとうございました!
著者:古勝数彦(ふるかつ かずひこ)
八王子市在住 日本星景写真協会会員
事務および広報担当理事
1999年頃から星景写真を撮り始める