2025年2月号「星空写真が紡ぐ、見えない糸」

星が紡ぐ過去と今

星空を見上げる瞬間、そこには怖いくらいの静けさと美しさと懐かしさのようなものを感じます。それはきっと、久遠を思わすほどの遥か彼方の光だからでしょうか。私たちが見ている星の光は遠い過去の記憶。「星空写真」とは物言わぬ星の言の葉を掬いとるもの。そこには光が放つ宇宙の歴史の真実があります。人も同じく過去があり今の自分があります。1人で星空を眺めていると仕事などで気合いを入れて過ごしている分、素の自分になれます。私は星空を見ながら幾度となく失敗や反省に落ち込んだり、新たな夢や目標を抱き決断をしてきました。星空には人を露わにも無にし「Restart」させる力や、「人と人を紡ぐ」力があると思っています。

早朝の志 コラム用

星空から学んだ経験と知識

もともと生活圏内に宇宙に興味がある人がいませんでしたが、それを何とも思わずに十数年自分だけの趣味として過ごしてきました。しかし大人になり宇宙少年団や宇宙教育の活動を知り、自分の頭の中だけでなく、年齢問わず誰かと知識やアイデアの共有をしたいと思うようになり1歩を踏み出しました。それから少しずつ交流が増え、関連するイベントや講演に参加するなど充実した日々でしたが、その後の人生に最も影響したのは「読み聞かせ」でした。
学校へ訪問し、小学1年から中学3年まで色んな学校の子供たちに接することができ、仕事との両立は大変でしたが楽しい日々でした。この経験は今の自分の源といっても過言ではありません。宇宙や天文に特化した読み聞かせやレク活動を行っていましたが、そこでとある事に気付いたのです。「あれ?レクで使う星空写真って自分で撮れないかな?」・・・と。当時、子供たちに見せていた写真資料は提供可能な海外の星空やNASAやJAXAなどの公共のものでした。この時のこの疑問が、未来の新しい自分への扉だったと思います。

星空ツアー コラム用
読み聞かせ

星空写真が私に猫と人を紡いだ

自分で写真を撮る!と決意したものの、持っているのは観測用の双眼鏡とBORG望遠鏡1つとカメラもニコンのCOOLPIXのみ。自動で風景や月を撮り満足していたので、何をどうやって始めていいやら。2014年当時、星景写真で唯一twitter(現 X)でフォローしていたのがstarwalkerさんこと、前田 徳彦さんでした。勇気を出し、恥と失礼を承知で撮影を始めるについてのアドバイスを聞こうと思いDMを送りました。見ず知らずの他人にも無視する事なく対応して下さった事は今でも大変感謝しております。

人生で初めて手にした一眼レフカメラとレンズに感慨深いものを感じファーストライトは辛うじて分かる、庭で撮ったボケボケの星空。「先ずはたくさん写真を撮る事ですね」と前田さんのひとこと。上達やコツを掴むことは後からにして、とにかく庭から見える明るい星でピントを合わせ、ひたすら夏の大三角やペルセウス周辺の撮影をし、アドバイス通り繰り返し撮影したお盆休み。以降、少しずつ庭以外の場所での撮影に挑戦し、風景も画角に入れ撮影を始め星景写真の魅力を知りました。後にも先にも面識の無い方へ自分から勇気を出して星景写真のアドバイスをお願いしたのは前田さんだけでした。

撮影を始めて時が経った頃、宮崎といえども冬の霧島国立公園は結構寒いのですが、撮影中に明らかに捨てられたであろう猫と出会いました。我が家には既に先住猫は1匹いましたが、私が撮影ポイントを変える度、必死に追いかけてくる子猫に「星がきれいだね、ほら、あの星はすばるだよ」と呟くと鳴き声と共に足にすり寄る子猫。冷たい毛を撫で思いました。この氷点下の何もない湖畔でこの子は春を迎える事ができるだろうか・・・と。そこで「うちの子になる?」と訊ね撮影を切り上げ帰宅し、即お風呂へ。その時、撮影していたM45に由来し「すばる」と名付け庭で記念撮影も。この時一緒に撮った星空にはすばるの横で静かに輝く46P/Wirtanenが印象的でした。奇妙なことに星空写真を始めてから異様なくらい猫に好かれ今では8匹の猫に囲まれ生活しています。(実話)そして、SNSやブログの魅力を知り、少しずつ星空写真を通じて繋がりの輪が増えました。星空は言の葉を乗せた光だけでなく、人々を紡ぎ結ぶ、見えない光の糸だと気付き頂いたご縁は大切にしようと思いました。

ねこ

すばると昴 コラム用

星空が未来を照らす

星空写真が私に教えてくれたのは“知識”や“経験”だけでありませんでした。自分にどう向き合うか?何か目標をもって日々生きるのか、人から受けた恩への感謝の気持ち、どうせ趣味に勤しむなら楽しくワクワク過ごしたい、星空という自然写真を撮るのだから自然を敬いマナーを大切にする、など精神面での気付きをもたらしてくれたように思います。
そして、星空写真は新たな未来の自分やこれから出会う人と繋がる力を持っています。1枚の写真に込められた「この時の星空の輝きはすごかった」「やっと探したこの場所」「とても寒くて大変だった」「この時のこの静けさ美しさをこの一枚に閉じ込めたい」という想いが1人でもいい、誰かの心に響くかもしれません。星空写真を通じて出会った人、会わずとも写真を通じて誰かの心に触れ、揺れ動かし、星空写真はきっと撮影者とその誰かを「見えない糸」で紡いでくれるでしょう。
私たちが見ている星空は過去からやってきた光です。それを記録し共有することで未来へ新しい光を放つこともできます。星空写真はただ美しい・映える、アクションが多いというものではなく人と人、古代から現代まで時代を超えた繋がりの象徴です。次にカメラを手にしようとしている人、撮影はしないけど星空写真を見るのはとても好きだという人に知ってほしい。カメラを通して切り取られた星々の輝きは、これから先に見る誰かの心の中で新たな希望として輝くものかもしれません。星空写真はアートではなくその1枚1枚に時間と空間と五感を乗せています。1人でもいい、誰かの胸の奥深くに届く1枚をいつか私も撮ってみたいと思う今日この頃です。
だいぶ大人になって出会った写真の師匠と猫と同じ趣味を持つ日本全国にいる仲間に感謝し、日々何か考えながら、時には猫とまったりしながら趣味を楽しみたいと思います。私は今、「猫のいる星空✰cafe」というグループの管理を前田さんとしています。同じ趣味や志を持つ楽しい人々と時には“交流”を、時には“イベント”を、そして稀に真面目に“学び”を、“機会の提供”の四つの思いを掲げて今、本気で遊んでいます。一期一会の星空写真と一緒で人との出会いも一期一会です。人生でも仕事でも折り返しは過ぎました。これからの未来をどう開いていくかは自分次第です。自分の周りの人たちを大切に、そしてまだ会ったことのない誰かを思い過ごしていきたいと思います。

猫のいる星空cafe2

猫のいる星空cafe
本気で遊ぶって疲れる事もあるけど残る思い出は楽しいものばかりです。
皆様の心にも素敵な星空がありますように。

(PROFILE)
著者 : 上野 晶 (うえの あき)
宮崎県在住
所属 : 日本星景写真協会 会友、猫のいる星空✰cafe 管理人