2017年12月号「IRカット改造の話」

撮影に関しては経験の浅い私に語ることなどなく、今回は少し方向を変えてIR(赤外線)カットフィルター改造の話をしたいと思います。
IR(赤外線)カットフィルターを改造すると星雲が赤く写ると言う話は皆さんご存じかと思います。なぜIR(赤外線)カットフィルターを改造すると星雲が赤く写るようになるのかを初心者向けに解説したいと思います。改造機を使用されている方はすでに理解されている話と思います。

D810Aにて撮影(メーカー製IRカット改造カメラ)

話の内容。
1)デジタルカメラの構造
2)赤い光は何?
3)センサーの感度
4)IRカット改造機の赤の特性
5)IRカットの功罪

※概念的な話ですのでかなり端折っています。

1)デジタルカメラの構造(必要なとこだけ)

レンズを通過した光は、IR(赤外線)カットフィルターを通過してセンサーに導かれます。実際の構造はもっと複雑ですが、理解を簡単にするために必要なところのみにしてその他は省略しています。
IR(赤外線)カットフィルターは、人間の目では見ることができない赤外線を除去する役割があります。これをしないと正常な色再現になりません。センサーには光をR/G/Bに分離するカラーフィルターがついています。

2)赤い光は何?
Hαという水素がエネルギーの高い状態(電離した状態)に置かれた時に発する光です。オーロラもこの色です。電離した状態という意味が分からない方は水素の色と覚えてください。星雲の赤い光はこの水素が発する光です。
この光は656.3nm(赤い光)と言う特定の波長を持ちます。Hαは赤外線に近い方に位置していします。エネルギーの高い状態で発光する光ですので普通の状態では発光しません。
なぜこの波長の光なのかということは量子力学的な話になりますのでここでは省略します。

3)センサーの感度(概略)

3−1)カラーフィルターのない場合

400〜700nmが可視光域で、人間の目で見ることが出来る光の範囲です。
センサー自体の分光感度は上図の様にかなり広く、紫外線や赤外線のところまで伸びており、広範囲の光を検出し電気信号に変える能力を持っています。これはカラーフィルターのない時のセンサーの特性です。紫外線よりが青、赤外線よりが赤、真ん中が緑です。

3−2)カラーフィルターのある場合(赤以外省略)

カラーフィルターで波長の短い方の特性が決まります。カラーフィルターは光をR,G,Bに分離するためのフィルターで、センサー表面にあります。カラーフィルターが赤外域まで通すので赤外域まで感度を持っています。このままでは人間の目と同じ特性にはなりません。人間の目は赤外線に対して反応しませんから赤外線をカットする必要があります。そこで赤外線カットフィルターの登場になります。

3-3)IR(赤外線)カットフィルターのある場合

IR(赤外線)カットフィルターを入れることにより必要な感度特性が出てきます。
赤の感度曲線は緑に近い方はセンサーのカラーフィルターで、赤外線に近い方はIRカットフィルターでほぼ決まります。700nm付近の感度をほぼ0にするために、Hαの透過率は15%〜25%ぐらいになります。

4)IR(赤外線)カットフィルター改造機の赤の特性
IR(赤外線)カットフィルターを赤外線方向の透過率が大きくなるように置き換えるセンサーに取り込まれる光の量が増えます。

非改造の特性(点線)より改造することにより赤の領域が大幅に増えます。どのようなIR(赤外線)カットフィルターにするかは改造するところにより異なります。
IR(赤外線)カットフィルター特性は、改造機のみならず無改造機でも赤の再現に影響を与えます。あるメーカーのカメラは赤が出るとか、このメーカーは赤が出ないとかは、少なからずこのフィルターの特性によるところが大きいです。レンズの特性に関して触れていませんが、マルチコートされたレンズは紫外線から赤外線まで広い範囲の光を通しますので、ここでは触れていません。

5)IRカットフィルター改造の功罪
IRカットフィルター改造するとHαの透過率が増えますが、人間の目では感じない赤外域まで取り込むので無改造機とは異なることが起きます。
①Hα透過率が上がるため星雲の赤が出る。
②人間の目では取り込んでいない赤外域の光を赤として認識するため人間の視覚特性と外れる。(たとえば赤外線を反射する化繊の喪服は色がほんのり赤くなりますが、ウールの喪服は赤外線を反射しませんので赤くなりません。赤だけでなく他の色にも影響を与えます。)
③赤外線を赤として取り込むため赤の光が増えるため赤が飽和しやすくなる。

要約すると、

・Hαは人間の目の感度が落ちている赤外域に近い所にあり、カメラの特性も人間の目に合わせているためかなり薄くしか赤くならない。
・センサーの帯域は紫外線から赤外線まで広い帯域を持っている。レンズも紫外線から赤外線までを通す。
・赤のカラーフィルタールも赤外線まで透過させている。
・IR(赤外線)カットフィルターで赤外線をカットして赤の特性を人間の目の特性に近づけている。

上記の要素が重なって、IRフィルター改造機はHαをより多く取り込むことが出来ます。

つたない文章ですが皆様の一助になれば幸いです。

著者:菊地秀樹(きくちひでき)
神奈川県厚木市在住 日本星景写真協会準会員