2021年9月号『 THE MYSTERIOUS NORTHERN LIGHTs~表現を極める 』

海外テーマの撮影は現在困難な状況です

写真撮影を生業にして40年程になります、この25年余りはオーロラ撮影業務や極北の自然、動物をメインとしています。現在新型コロナウイルス世界拡大の状況下では、オーロラ撮影も観光では行けません。業務の場合は出かける事は可能ですが、その他の危険な事があり控えている状況です。最後にオーロラ撮影の仕事に出かけたのは昨年2020.3.13~21日でしたがそれは大変な状況での帰国となりました。
その頃の現地では、アジア人に対する差別などもあり危険でホテルの部屋から出られない言わば監禁状態が続き帰国日は夜明け前に逃げるように空港へ向かい何とか帰路に就く事が出来ました。2日後には成田便が閉鎖になりましたので危機一髪何とか脱出できたという感じでした。今回はオーロラの撮影をしなくてはならない仕事がありましたので、それだけは現地の友人に力を借り無事に撮影が出来ました。現在オーロラが観られる国では、早々観光として旅行人を受け入れる準備をしています。まだ早いように思えますが経済も優先させないといけない状況になっている事も事実です。
ほとんど人気のない成田空港チェックインカウンター2020.3.13日

1980年に本格的なフィルム現像とプリントを開始

オーロラと出会う事になる15年位前1980年にコダックに入社し背面投影での手焼き大伸ばしで4畳までのカラー写真のプリントを行っていました。それは実に難しくそして実に面白くそのあげく自宅にカラー暗室を建て、ネガカラーのフィルム現像、そして行き着く先のリバーサルフィルムのE6現像やプリントを行うほどの“物好き”になっておりました。そしてカラーの世界に没頭しやがてメイン業務がモノクロからカラーに置き換わりました。
時は流れ現在は、フィルムから本来のプリント方法が無くなり銀塩は真の意味をなさない方法だけが残っている現状となりました。つまりフィルムからのダイレクトプリントする手段が無くなりました。一部では復活との話も聞きますので実現出来たら良いと思いっています。手焼きダイレクトプリント出来る職人が日本に何人残っているのか?と思ってしまいます。現在はフィルムで撮影しても必ずどこかでデジタル変換をしなければ最終成果物にならないのが現状です。
それではフィルムを使う意味を成しません。何故なら99.9%デジタル処理で同じものが出来る時代でそれが現在主流の処理だからなのです。
1996年銀塩がまだ主流の時代に富士フォトサロンで個展を行いました、その時写真の中に1枚だけスキャンをしてデジタル処理をした写真を入れました。お客様からこの写真は素晴らしいですねと、そのデジタル処理した写真が評価されました。しかも大勢の人から・・・
この時”なぜ偽物の写真にお客さんは良いと言うのか”僕は聞いてみました、答えはとにかく写真がきれいですよ、とシンプルに言われました。
自分が思う精一杯のこだわりは自己満足の世界で、人様に写真を見てもらい喜んでもらうと言う商業写真の本質から離れている事に気が付きました。自己満足をする写真は撮るな!と言った師匠の言葉を思い出しました。自己満足をしたいのなら人に見てもらうような事はするな!とも言われた事を・・・
次の年、僕は時期尚早でしたが入出力機器全てをデジタル化しました。今でも現役の『EverSmart Pro』最高解像度8.200dpiの怪物で重さ70キロあります
フィルム資産を生かすため、スキャナーだけはハイスペックにするしかなかった。

オーロラとの出会い

展覧会の1年後1997年、オーロラ撮影では日本の先駆けで第一人者の門脇久芳氏にフィンランドのラップ地方とロシアの国境でのオーロラ撮影に同行しました。そして見てしまったオーロラ・・・。
当時オーロラを撮影するカメラはフィルムで、定番のカメラはニコンFM2でした。僕はマミヤのM645やRB67も持ち込んで中判で良く撮影していました。
ネガフィルムの方がリバーサルより撮りやすかったのをよく覚えています。気温が-40度の場合ISO800前後を使って撮っていましたが実効感度は僅かで10にも満たない状況でした。そしてフィルムの最大の欠点とされる相反則不軌が起こってしまいました。露光時間と光の強度や気温にも左右される現象でした。当時の露出時間は使用するレンズのF値やフィルムの感度にもよりますが60秒は当たり前で必ず星は流れていました。今の様に星を点で止めることは考えもしない事でした。
その頃のデジタル機材では、まだ夕方も奇麗に撮れない世界でオーロラをデジタルカメラで撮れる事になるとは思っても見なかったし、そもそもカメラを室内から外に持ち出す事が出来たのは2000年になってからの話なのです。そして2005年10月世界にデジタルカメラの革命が起きました、キヤノンが初のフルサイズ機EOS5Dを発売しました。これでオーロラ撮影の世界も一気にデジタルの流れに巻き込まれることになりました。
すぐに追随したニコンD200やD2X等でも撮れたが高感度に弱くフィルムを使った方が良いと言う人も多かった記憶があります。
湖上にアーチを描くカーテン状のオーロラ、あまりにも大きかったので3枚の分割撮りでステッチ2006年9月EOS5D ISO1600

極光を追いかけて

オーロラ撮影に夢中になりどこまでもその神秘の姿を追い求めた結果が何故か納得のいかない写真となりました。そして何かが足りないと思うようになりました。
どの道納得のいくまで撮るしかないと思いオーロラ直下のカナダへ通う事にしました。通いだして10年近く経った頃この地には夜、人がほとんど行かない幻の滝があると聞かされました。それは自分にとって最も興味のあるところでどうしてもその滝を見てみたくなりました。現地の友人にお願いしてその滝に昼間案内をしてもらいついにその滝の前に降り立ちました。この滝の真上にオーロラが出ると聞き僕はその瞬間が絶対に撮りたいと思いました。その夜、意を決し真っ暗な森の中をライト一つで歩いていると泣きたくなるほどの恐怖感におそわれました。そしてやっと滝に到着すると待っていたかのようにオーロラが現れ滝の真上から強烈な光を放ち数時間舞い続けてくれました。
何年も夢見た憧れのシーンでしたが不思議と慌てることなく冷静に撮影することが出来ました。

2013年9月 苦労の末、初めて撮影出来た滝とオーロラのコラボレーション
X-E2  SAMYANG8mmFisheye ISO6400

2018年9月 α7sⅡSIGMA 20mm F1.4 ISO10000
この場所では、現地の青年2名がキャンプを張りクマに襲われ亡くなっています。クマの領域に人が入るわけですので細心の注意が必要です。もし出会ってしまったら覚悟を決め自分で命を絶つほうが楽と先住民に聞いたことがあります。

VR360パノラマとの出会いと表現手法

撮影をしていた時、ふっと後ろに出ているオーロラも余すことなく撮影出来ればより良い表現が出来るだろうと思った事があります。そしてそれが絶対に撮りたいと思うようになりそれからは機材の改造、開発、製造、等色々な事にかかわり、現在の自分の撮影スタイルが完成しました。2012年当時小さくて高感度にある程度強かったフジのX-E1やX-E2を使い高画質でパノラマ撮影が出来るように考え専用のリグを開発しました。
当時はパノラマに適したレンズがほとんどなく使える物は何でも使うスタイルで撮影テストを繰り返しました。
初期のVR360パノラマシステム、3台組より4台組の方がステッチ精度は高かった。しかし4台の完全同期シャッターの難しさや撮影後の処理に想像を超える時間がかかった。

2021年現在使用しているリグとカメラレンズの仕様。現在は周囲240度までカバー出来るレンズ等もあり高感度、高画質の撮影が2台の組み合わせで出来るようになった。

2013年3月エクイレクタングラーという図法より投影変換でリトルプラネット表現へX-E1 MADOKA7.3mm Fisheye×3台 ISO 1600

2019年1月 空を二つに割って色違いのオーロラが出現、VRパノラマで360度アナモフィック撮影を行いシネマスコープ = 2.35 : 1のタイムラプスでムービー化をする。
LUMIX GH5s Entaniya Fisheye HAL 250×2台

2018年3月 エクイレクタングラー処理の後、上下をカットしています(左右は360度)
GFX50S  EF 8-15mm Fisheye 周囲3枚 上1枚の合計4枚撮影後8Kパノラマタイムラプスへ

6mまで伸びるロングポールを使い状況に応じて撮影の高さを決める。背中合わせのカメラの位置を風景の中のどこに置くかで後のステッチ精度に問題が出るので一番神経を使う。

上の写真で撮影したものがこちら。三脚や雪上の足跡、そして撮影している自分もちゃんと写っている。GFX50S Entaniya Fisheye HAL 220×2台
2020年3月 コロナ海外封鎖前の最後の撮影

2018年9月 世界初のドローンから追うオーロラの姿 (リアルタイム動画より切り出し)
α7SⅡ SIGMA 14mm ISO100000   DJI Matrice M600 Pro

2020年1月 オーロラ人生1度だけの奇跡のシーン GFX100 SIGMA 24mm f1.4 5枚ステッチ オーロラと幻日を初め各種の光学現象とライトピラーの競演

オーロラは静止画より動画がベスト

https://www.youtube.com/watch?v=fS2GqVvXlC4

オーロラは写真を見るより動画の方が現実に近いのは当たり前ですが、タイムラプスも写真であり現実感の無い動きをするのでリアルタイムで見てもらうのが一番良いと思っています。VRパノラマからタイムラプス、リアルタイムそしてドローン撮影全てを入れた動画です。(ダウンコンバート)

300万カットの先に

1997年初めてオーロラと出会い、その後当たり前のように生活を送りながらここまでやってきました。その間にオーロラ撮影だけで太平洋を50回以上渡り撮影地へ通いつめ自分なりの結果を出すことが出来ました。その結果をドキュメンタリー番組としてNHKより放送出来た事で自分の中の終着駅に辿りついたと感じております。今はカメラを持たずにオーロラの地へ行き観る事だけでも満足できるようになりました。
ASPJ 日本星景写真協会の皆さまの中にも、一緒にオーロラ撮影に出かけた人もいます。
これからもオーロラ撮影忘れないで極光に会いに行ってください、付き合います。

著者:田中 雅美 埼玉県在住
静止画と動画のVR360パノラマとVRモーションTimelapseをメインとして撮る
主に日経新聞、フジ産経系列で作品を公開

代表的な出演番組
NHK-G 天空のスペクタクル~オーロラ・四季の絶景~
NHK-4K いとしのオーロラ~カナダ・北の大地の絶景と人々の物語~
NHK-8K 超高画質8Kタイムスケイプの世界
BS-TBS 地球絶景紀行 ~カナダ極北オーロラの聖地へ~
BS-TBS 新地球絶景紀行~奇跡の光・北米大陸紀行~

主な書籍
「極北の絶景パノラマ・オーロラ」(河出書房新社)
「極北の彼方」リアルタイム・オーロラ(廣済堂出版)
山翡翠(クレオ)等

写真展は富士フォトサロンを始めメーカー展や企画展にも参加している。

雑誌掲載は、写真誌や旅行誌、パンフレット、ポスターその他多数。
メーカーイベントでの講師、旅行会社のツアーインストラクターや同行撮影講師。
都内の画廊で行われた、黒澤明監督(1910年3月23日~1998年9月6日)版画 影武者のイベントにオーロラアートで参加国内最高スペックと言われた岡三デジタルドームシアター神楽洞夢立ち上げ時のオーロラ映像を担当。
実業家でもあり教育者でもある渋沢栄一の記念館(渋沢栄一記念財団)より、志が渋沢栄一に似ているとの事から財団の発行する機関誌「青淵」にエッセイを寄せる。

公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
公益社団法人 日本広告写真家協会(APA)会員。
カナダ観光局ノースウエスト準州観光局公認の自然写真家。
https://www.facebook.com/masami.tanaka.90