2024年7月号「山から見る星空」

<はじめに>

はじめまして。長野県在住の増村と申します。東京都出身ですが信州の自然と星空に惹かれて30年ほど前に移住しました。今は自然保護活動の傍ら山岳写真や雷鳥などの生き物の写真を撮影しております。
私の星との出会いは小学生の時に父からプレゼントされた6cm屈折経緯台でした。その後中学高校になり、地学部に所属してからはもっと大きく明るく天体を見たいと思うのは当然の流れで12cmの反射経緯台、アルミ製のポータブル赤道儀などを自作して綺麗な星空を求めて奥武蔵などの山に行くようになりました。
その後も星を見に山へ登っている内に山の自然にも魅せられて現在に至っております。
長野に移住してからは自宅に観測所をと漠然と考えておりましたが、車に機材を積んで身軽に動ける方を選びました。デジタルカメラの出現で飛躍的に星が写る様になると、天体写真よりも山から見た星景写真をメインに撮るようになっております。
私は日本星景写真協会の会員ではないのですが、2023年に安曇野の近代美術館で開催された写真展で大西様と一緒に展示したご縁で、声をかけていただきました。

<作品紹介>

1鳥海山01
ここ数年のマイブームは山上湖に映る星空です。池や湖に星が映るには無風でなければならず、晴れていても条件が揃わないので撮影には数年越しということも多いです。上弦の月が鳥海山を照らしながら沈む頃を狙っていましたが風も止んでベストタイミングで撮影できました。眼下の鳥海湖には星が映っています。天の川が西に傾きかけていますがバランス良い位置に木星が輝いていました。

2白馬大池02
夏の白馬大池に映る夏の銀河です。地上には夏山シーズン最盛期のテント村が出現していて色どりを添えています。銀河の両脇には木星と火星が輝いていて賑やかな画面となりました。

3北横岳・七ッ池03
冬の北横岳は通年営業している山小屋があるので冬でも気軽に行けます。近くに池があるのですが冬は凍って雪原になります。ここに寝転がって星を見ていると体が宙に浮いたような不思議な感覚になります。2023年の暮れはまだ雪が少なく、池の上はスケートリンクの様になっていました。夜明け前に金星が昇ってくると池に映ってその明るさに驚かされます。

4燕岳・月出帯食04
2021年11月の月食は燕山荘から見ていました。月出帯食でしたので地球の影と今自分がいる北アルプスの山の影が重なって見えるという珍しい光景を見る事が出来ました。

5栂池・部分日食05
北アルプス山中で見た部分日食です。平地では雲が多い予報でしたので山の上なら晴れるのではないかと、思い立って行ってみました。上手い具合に薄い雲が減光フィルターの役割を果たしてくれました。この後雪に潜ったライチョウに出会いました。ライチョウはどんな気持ちで日食を見ていたのでしょうね。

6北岳106
国内では富士山に次いで宇宙に近い場所です。山頂にある肩の小屋の食堂には私の写真を飾っていただいておりますが星景写真も一枚あります。登山客が寝静まった頃には天の川が北岳にかかってきます。

7北岳207
北の空を見るとテント村の灯りと北天の対比が面白いです。漆黒に沈む山のシルエットは甲斐駒ヶ岳です。

8ネオワイズ彗星08
2020年に現れたネオワイズ彗星は梅雨空に阻まれてなかなか見ることが出来ませんでした。山なら雲海の上に出て見えるのではないかと白馬岳に登りました。白馬大池で一瞬雲が切れて見ることが出来ました。白馬大池の対岸から池を入れて撮るつもりでしたが晴れ間が一瞬でこの写真を撮るのが精いっぱいでした。

9カノープス0909-2
自宅の裏の丘から塩尻峠の向こうにカノープスが見える事に気づいたのは最近です。松本塩尻の強烈な街灯りにも負けず、明るく輝いていました。

10冬のブナの森にて10
冬は行動範囲が広がる、山スキーを使って山に行く事もあります。山中で雪洞やイグルーを作って泊まり、雪の森や雪原から見る星空は格別です。この日はブナの森で雪洞を掘って泊まりました。西の空には黄道光が見えています。ここ数年は2月になると春めいてきて晴れる日が多くなります。

11初冬の燕岳11
燕岳は11月末まで山小屋が営業しているので毎年星を撮りに行っています。明け方には新雪の槍ヶ岳の上にオリオンや冬の大三角が来るのは定番構図です。

12年末年始の鳳凰山12
南アルプスの鳳凰山は山小屋も営業していて晴天率も高いので何度も登っています。薬師岳小屋周辺は形の良い岳樺の木が多く、星空の全景にする事が多いです。

増村多賀司(ますむらたかし)
東京都出身。幼少期はオーストアリアで南十字星を見て育つ。
現在は長野県北安曇郡在住。長野県自然保護レンジャーの活動で毎週の様に山々を歩きながら山岳写真、星景写真を撮影している。
不定期で山岳雑誌や教科書などに写真を提供中。
日本山岳写真協会会員。長野県自然保護レンジャー。
最近はスマート天体望遠鏡によるお手軽な天体写真を始めて晴れた日の翌日は眠い日々を送っている。