星空と共にある風景を切り取る星景写真は、対象とする風景の背景となる「星の配置」を考慮することから、時期(細かい年月日と時刻。時に秒オーダー)、方角を気とても気にして撮影します。多くの場合、かなりの事前計算がなされて構図がとられています。
もちろん、現地にて初めて気づいた構図を切り抜くこともあるわけですが、その時でも、「ここを撮ろう」と思った瞬間には、「どのような写真が撮れるか」が、頭の中に浮かんでおり、その時浮かんだイメージと仕上がりのイメージには殆ど差異はありません。
こちらは、2016年5月28日に開催された「野辺山観測所 夜間撮影会 第1回」で撮影した作品です。
このような撮影会が開催される前から、観測所の一般公開を訪問していたこともあり、現地の
建造物配置と、方角が頭に入っています。当日、立ち入り可能エリアを説明して頂いた時点、「この時間、この方角を、このアンテナと絡めて、こう撮りたい」ということは、予め頭の中に浮かんでいました。あとは、天気という不確定要素がありますので、天に運をゆだね、この結果が得られています。
(当日は、雲が流れていたため、目的の時間より前からインターバル撮影を仕掛け、撮影後、雲の状態がもっともよい1枚選びだしています。)
そんな計算づくの撮影にも天気以外の不確定要素があり、自らの意思で能動的に撮影している
つもりが、「自然に撮らされた・・・」と感じてしまう写真があります。
こちらは、2016年7月31日 2:03 乗鞍岳 剣ヶ峰 山頂(標高3,026m)から撮影した天の川です。
この時間帯、この位置から、この方向、鳥居と高度指標をこのようにからめると事前に決めて
撮影しています。雲の状態は時の運となりますが、この撮影を終えたあと、嬉しいハプニング
が待っていました。
山頂で予定していた撮影を一通り終え、機材を全て片付け終わったところでザックを担ぐと去ることが名残惜しいような、後ろ髪ひかれるような気持ちにかられ、辺りをもう一度見渡しなおしました。すると、東の地平から真夏のオリオンが昇る所でした。
慌てて三脚をザックから外し、50mmの狭い画角をつけたカメラを設置し(オリオンを大きく
入れたかったので能動的選択)、大ざっぱなピント合わせでレンズをオリオン座に向け、露出設定もカンのままに試し撮りをすると、以下の写真が。。。
流星がオリオン座を横切っていたのです。
通常流星撮影は、インターバル撮影を仕掛けてカメラを放置します。
いつ、空の何処に流れるかは判りませんので、数時間(バッテリーの続く限り)撮影し、家に帰ってデータチェックをして、流星写真の当たりを探し出すプロセスが普通です。
それが、たった1枚の撮影で撮れてしまったのは初めての出来事でした。
自分はなぜあの時後ろ髪をひかれたのか、機材を設置するまでの時間が、これより速くても遅くても撮れなかった。自分にとってはかけがえのない1枚です。
また、たとえインターバル撮影で撮影した多量のデータから流星画像を選び出したとしても風景、星空、流星の配置によっては、まさに「撮らされてしまった」「天からの授かりもの」と思えるような写真が撮れることもあります。2枚ほど紹介しておきましょう。
このような流星の「嬉しいハプニング」のほかに、雲のハプニングというのもあります。
こちらの写真は、天の川中心付近とさそり座を背景に光る雷雲です。50mmという狭い画角を中心にさそり座を捉えつつ、画面ど真ん中に雷雲が光るという絶妙の組み合わせです。
こちらの写真は、雲が龍のような形をしており、月を食べているようにも見えます。
雲の形は瞬く間に変わっていったのですが、「あっ龍に見える」と思い咄嗟に撮った1枚です。
如何でしたでしょうか?
様々な準備をしつつ狙い澄まして撮影する行為。その向こう側に「狙いを超えた出会い」があるのです。能動的に撮影しているのに「自然に撮らされた」そう思わざるを得ない不思議な出会いがある星景写真。鑑賞するだけでも、その楽しさを垣間見て頂けたのなら幸いです。
著者:山本 勝也(やまもと かつや)
神奈川県在住 日本星景写真協会 正会員