2019年3月号「IR改造機で撮影する星景タイムラプス」

今でこそ星景写真のIR改造機での撮影をよく目にするようになりましたが、数年前までは「景色が赤くなってしまう」「普通の色に戻すには高度な現像技術が必要」などを理由に星景撮影にIR改造機を使用する方はいませんでした(実際に市販されていた多くのIR改造機は、RAW現像を前提とした天体撮影専用ということで一般風景向けの調整はしていませんでした。)。そんな状況から、私が星景写真や星景タイムラプスにIR改造カメラで撮影するようになったいきさつと作品を紹介させていただきます。

EOS60Dαとの出会い
2012年、デジタル一眼で星景写真を撮り始めた7年前、私はEOS5DⅡを使用していました。繊細かつ高感度で、星の写りがよい反面、フィルム時代のようなカラフルに写らないことを残念に思っていました。そんな矢先、天体撮影用として登場したのがキヤノンのEOS60Dαです。私は、星景撮影にも使えないかと考え、発売を待って使用してみました。
ちょうどその頃、タイムラプスの作成を開始し、YouTubeにアップをしていました。EOS60Dαで撮影した星景タイムラプスにバーナードループが写っていたり、M42オリオン大星雲がピンク色に写ったりしていることに、多くの質問が寄せられ、またその珍しい写りが注目されるようになりました。この頃は、星野写真でも広角レンズや魚眼レンズでIR改造機を使用して撮影する方はいませんでした。
YouTubeでは、EOS60Dαの使用の他にも、星景写真にインターバル撮影で恒星追尾をしたり、また赤道儀の極軸を天頂に向けてパン移動に使用したりしている方もなく、星の流れのない風景に濃い天の川やHα領域が写り込んだ星景タイムラプスは大変めずらしく、少しずつフォロワーが増えていきました。

◎YouTubeにアップをはじめたころのタイムラプス

◎美ヶ原がタイムラプスで注目されるようになったタイムラプス

せっかくインターバル撮影した星景画像がたくさんあるので、天体写真で行われているコンポジット合成も試してみました。のちに天体の直焦点撮影から参入した著名な方が風景と星空をマスク処理してコンポジット合成する手法をYouTubeで発表して、やっぱり天文屋さんは同じことを考えるものと感心しました。ただ、フィルム時代から星景写真を撮られている方には、大変違和感のある手法だったようです。のちに天体写真をそのまま別の場所で撮影した風景写真に貼りつけたような偽作品がSNSで多く投稿され、私も強い違和感をもつようになり、その後は一枚撮りに専念するようになりました。

◎二次マスク処理による星景写真(赤道儀にカメラをのせてA:固定で10枚撮影後、B:恒星追尾をして10枚撮影、AとBを別々にコンポジット合成した後、Aの風景部分のマスクをつくりAとBを合成する。よって、下記の写真はAの10枚目の画像と同じ風景と星空になる。天体写真の手法を星景写真に応用)

さて、YouTubeのアップが順調になってきたこともあり、フェイスブックの天文系のグループを通して、浅草でクラッシックカメラの販売・修理業を営み天文機材や天体写真に大変詳しい根本泰人氏、まだ当時天体写真を撮り始めて1年といういわきの三本松尚雄氏など、たくさんの方々と知り合うことになりました。

◎フェイスブックの天文グループで開かれた「いわき水晶山星空観察オフ会」

IR改造カメラの使用
2014年、天体写真撮影の方々の影響もあり、EOS6D購入をきっかけにして、いよいよ星景写真にIR改造したカメラを使用することになりました。

◎IR改造により赤い散光星雲を目立たせたタイムラプス(FHD)

その後、友人の前田徳彦氏(http://starwalker.jugem.jp/)もIR改造に踏み切り、果敢にIR改造を生かした撮影をして公開していきました。星景写真家としての前田氏の知名度の高さと素晴らしい作品は、「星景写真もIR改造でより美しく撮れる」とこれまでの風評が瞬く間に覆してしまいました。

◎前田氏がIR改造に踏み切るきっかけとなったと話していた、一切経山に沈む北アメリカ星雲の写ったタイムラプス
「IR改造機での星空は見た目の空と違っておかしい」「あんなに星空はカラフルに見えない」などの反論をいただくことがあります。そんな反論する方も満天の空や天の川の撮影で、肉眼で見える星空にこだわった6等星までしか写らないようにした星空は撮っていません。鳥の飛んでいる姿も走っている列車も時間を止めて写せるのも、長時間露出してたくさんの花火を重ねて写せるのも写真ならではできることです。これからもIR改造にとどまらず、カメラを通して見える星空のある風景、カメラを通さないと見えない星空のある風景を撮っていきたいと思います。

◎2015年 高画質の4Kでアップするようになったタイムラプス

◎2016年 フジテレビ月9ドラマのエンディングに採用されたタイムラプス
◎2018年 天文ガイドYouTubu版に掲載したIR改造でのタイムラプス

私がカメラのIR改造を依頼しているところ
ハヤタ・カメララボ
http://www.hayatacamera.co.jp/astrophotography/
ご自身が天体写真マニアのため親身に相談にのってくれます。また、大変高価で精密なクラッシックカメラを扱っているスタッフ・技術者の手作業による改造とあって、とても丁寧な作業なので大変信頼してお任せしています。

著者:小林幹也(こばやしみきや) spitzchu
埼玉県在住 日本星景写真協会 準会員
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