2020年3月号「昨今の阿蘇山周辺事情」

はじめまして。縁あってこちらに拙文を載せていただくことになりました、吉田と申します。

熊本市に住んでおりまして、主に阿蘇周辺で星空と戯れております。

星に興味を持ったのは今から40年近く前。きっかけは小2の私に祖父が買ってくれた口径4cmの望遠鏡でした。月しか見えませんでしたが、その月のなんとも言えない神秘さは私の原体験です。15年前に転職で地元の熊本に戻り、やはり九州は星を見るのによい場所だなぁと再確認しながら、星見ライフにいそしんでおります。

メインの観測ポイントは阿蘇外輪山の北麓にあたる南小国町になります。小さなスライディングルーフの観測小屋を建ててそこで観ていることが多いのですが、それ以外にも阿蘇周辺で撮影をすることがあります。

熊本市から1時間程度で標高700~900mの阿蘇外輪山上まで上がることが出来、簡単に天の川が見られるということで、星屋としてはとても居心地のよい熊本ですが、昨今、なかなかに悩ましく、かつ人間の力では改善しがたい状況にあります。

今回は日本全国でも珍しい、この状況について少しご紹介したいと思います。

さてご存じの通り、阿蘇はいわゆる「活火山」です。

一般的に総称される「阿蘇山」は、中央火口丘(阿蘇五岳など)を示している事が多いのですが、実際にはその周囲のカルデラ盆地、それを囲む外輪山を含めて大きな山系を形成しています。南北の外輪山の稜線上やその裾野に、多くの観測、撮影ポイントがあります。

活火山と云っても、普段は火口から水蒸気が主となる白い噴煙が上がる程度で、周囲での生活等には特に影響がありません。

[写真1]2018年5月 北外輪山より 噴煙は殆ど見られない

しかし、まだ我々にとっては記憶に新しい熊本地震(2016年4月)の少し前あたりから、徐々に火山活動が活発化してきました。昨年からは、かなり継続して火山灰を含む灰色の噴煙が上がるようになり、時には熊本市内にも降灰が見られるようになりました。

[写真2]2019年8月 草千里展望台より中岳火口から草千里

熊本の地元紙では、天気予報と共に阿蘇山上空の風向きの予報が示されます。風下にあたれば、量の多寡はありますが、数10kmに渡り降灰の可能性があり、もちろんカメラレンズを空に向けて長時間の撮影などはもってのほかとなります。

火山灰は通常の砂と異なり、粒子が小さく、風化を経ていないため尖っています。これがレンズ表面に付着した場合、清掃にとても気を遣います。出来れば晒したくないのが本音です。

2019年の夏に全国で行われた夜空の明るさ調査(https://hoshizora.photo/)でも、殆ど晴夜のない天文屋にとってストレスの溜まる日々に加え、わずかな晴れ間で向かった観測地が火口の風下にあたってしまい、観測を断念するといったようなこともありました。

そのような環境下ですので、通常の天体観測で気にする天候や月齢に加え、「阿蘇の煙はどっちに流れているか?」を気にしながら観測、撮影の計画を立てることになります。

また、風はなかなかに気まぐれですので、予報と違う方向に流れてしまい、今日は大丈夫だと思ったのに~(>_<)ということも、まま発生します。

そんな中ですが、結果的にはたまたま通りかかった場所で噴煙と共に撮影出来たものを少しご紹介出来ればと思います。

[写真3]2019年10月 南阿蘇村/鳥の小塚公園より 噴煙は南東へ

地名の通り、阿蘇カルデラの南側、外輪山を少し登ったところにある展望台付近からみた、阿蘇の噴煙から北東方面を望んだものです。

画面下にオリオンが昇ってきていますが、北西の風に乗って流れる噴煙の中。

阿蘇周辺ではこの方向の風が一番多いパターンかと思います。

[写真4]2019年11月 北外輪山上/大観峰より 噴煙は西へ

こちらからみる阿蘇五岳(中央火口丘)は、ポスターや絵はがきで使われる最もポピュラーな景色です。火口のほぼ真北に当たるポイントですが、この日は上の写真とは逆に東からの風で、噴煙は西に流れていました。この翌朝、阿蘇の西側にある熊本市内の自宅周辺ではうっすらと降灰が・・・。

なお、この場所で、噴煙の上にカノープスのアーチを描いてやろうとずっと狙っているのですが、天候や噴煙との組合せが悪く、今シーズンは残念ながら星果なしに終わりそうです。(実は12月に一度好天でチャレンジしたのですが、噴煙がまっすぐこちらに向かってきてしまい、敢えなく撤収となってしまいました)。

今はとにかく火山活動の沈静化を願うばかりではありますが、地球という天体の一つの営みと思えば、これも広い意味で天文現象の一つと云ってもいいのかもしれません。観測、撮影にそれほど時間を投入出来るわけでもないので、ついつい恨み節を吐いてしまいがちなのですが、なるべく安らかな気持ちで、

「こっちゃん来とらすならおるたちゃ反対さん行くけん、ヨカごて吹いときなっせ(熊本弁)」

→こっちに(煙が)来ているなら俺たちは反対に行くから、まあ好きなように(煙を)吹き上げていればいいよ。(標準語訳)

と、風上の灰が来ない方へと車を走らせたいと思います。

拙文をお読みいただき、ありがとうございました。

【プロフィール】

吉田光一郎(よしだこういちろう)

Facebook: https://www.facebook.com/koichiro.yoshida.39

熊本市在住の会社員 1972年生まれ

千葉大学工学部画像工学科でなまじ写真をほじくってしまい、今でもカメラを手放せない人生を送っております。学生時代は一時、某プラネタリウムでお喋りしたりしておりました。

所属:熊本星を見る会

特に定期的な発表の場を持ってはおりませんが、上記所属主催の写真展などで不定期に拙作を発表したりしております。