2021年5月号「ネオワイズ彗星撮影記」

5年ほど前退職を機に山上に観測小屋を建て、本格的に天体観察を始めた。(愛知、岐阜、長野3県の県境の三国山の頂上近く:池ケ平)自宅から車で2時間と遠いが、1100mの山の上で展望よく、空も暗い。

網状星雲 Vixen SXP SD81S(屈折81mm) 3分20枚 2020年

天体写真は30年以上前、名古屋市科学館の天文クラブバルブの会をきっかけに、細々と続けてきた。時々遠征に出かけて、星景写真も撮っていたが、名古屋のセントラルギャラリーで開かれた第3回ASPJの写真展で大いに刺激を受け、本会に入会させていただいた。

天体写真の撮影においてアストロアーツのPCソフト<ステラナビゲーター>を使っている。このソフトのうれしい機能は、天体ごとの自分の写真を投稿してweb上に載せてもらえることだ。ほかの方の写真も見られてとても参考になる。例えばソフト上でM13をクリックすれば、いろいろな方の撮られた写真がわんさと出てくる。その中には自分の作品も。

M13球状星団 Vixen SXP R200SS(反射20cm) 30秒 8枚 2017年

北海道遠征

前記のステラナビゲーターで、ネオワイズ彗星の情報を見てみると、なんと北海道の方の素晴らしい写真がアップされているではないか。

名古屋の自宅でネオワイズ彗星を狙うと、シミのようなぼんやりとしたもののみ。そもそも梅雨時でこちらはほとんど晴れない。どうしても見たい、撮りたい。そうなると梅雨がなく、緯度が高くて長時間観察できる北海道に行くしかない。実のところコロナで飛行機に乗るのは少々ためらわれたが、ここは今しかないと遠征を決心した。

ネットは便利である。GPVの気象予報とグーグルマップで下調べをした。晴れそうな初山別村を第一候補に、千歳空港からレンタカーで所々景色の良さそうなところに寄り道しながら4時間ほど走った。初山別村のみさき台公園には天文台があり、時間があったので見学させていただいた。大望遠鏡で日中でも見られる金星を見せていただいた。そしてそのあたりを見て回って金毘羅神社の鳥居のところで撮影することに決めた。夕方18時過ぎのことだ。

夕日の名所でもあるらしく、その時間帯には20名以上の観光客がいた。せっかくだから夕日の沈みそうな位置を見定め夕日も撮影。その後は皆さん帰るだろうなあと思っていたが残る人も多く、びっくり。北海道ではネオワイズ彗星が一部SNSで話題になっていたようだ。

夏の日は長く、ようやく19時半すぎになってネオワイズ彗星が現れた。双眼鏡で確認できた時は、思わす「おーーー」と感激。名古屋で見たものとは全然違う。その後肉眼でもぼんやり確認できるようになった。

まずは薄明のゴールデンタイムの空の中でのネオワイズ彗星。鳥居と合わせたいところからは少々離れているのが残念だったが、前にも横にも数名人がいて動きにくく、その後の彗星の動きに期待してここは我慢。気がつくと鳥居の中には、はるか利尻富士の姿も。

2020年7月18日 20:44 キャノン6D 50mm ISO800 F2.8 30秒

その後も数十枚撮り続け、次の写真を得て満足した。ネオワイズ彗星が鳥居の上に来て、また少々離れている漁港や駐車場の街灯で鳥居がほどよく浮かび上がったものです。

2020年7月18日 21:25 50mm ISO10000 F2.8 10秒

この後、最北端の宗谷岬までドライブ。星空を期待するもここは、駐車場の明るいこと。しかも彗星の核は薄雲の中で尾しか見えない。ここであきらめて近くの暗いところで車中で仮眠。翌朝南へ走った。

7月19日は観光地で有名な美瑛に宿をとっていた。午前中から下見。昼間は良い天気で「あの木を入れて」とか撮影のイメージを立てて楽しみにしていたのだが、夕方になると西の空から雲が近づいてきた。仕方がないので天気予報を調べて、晴れそうな北方の旭川方面へレンタカーを走らせる。旭川郊外に到着するも西天には雲があり、さらに高速道に入って東へ向かった。

全く下調べも出来ていないで行き当たりばったり。比布北ICを過ぎてさらに東へ少し走ったところで満天の星空を確認。高速道路を次の愛別ICで下りて適当なところを探した。どこともわからないが、下の写真を写すことができた。上川盆地の上空、みごとなV字の尾を広げたネオワイズ彗星だ。

2020年7月19日 21:36 キャノン6D 48mm ISO3200 F2.8 30秒

こんな大きな彗星はまたいつ見られるかわからない。一生モノの写真になった。

河合 昭治 (かわい しょうじ)
名古屋市在住 日本星景写真協会準会員 中天星空クラブ