2016年10月号「タイトルに込めた思い」

あなたが感動した風景を目の前にして撮影しようと思ったとき、どのように行動していますか?構図を考えて、三脚を立てて・・・と身体が真っ先に動いていませんか?

しかしながら、撮影という行為そのものが目的ではないはずです。自分の心が動かされた風景を記録したい、他の人とその感動を分かち合いたいための手段に過ぎません。したがって、人に伝えるためには、心が動いたその思い-自然との対峙-を言葉で表現することが大切ではないでしょうか。
それが「タイトル」となります。

まず、ロケハンを事前に行い、構図が決まっていたとしても、私は(極力、すべての感覚がその雰囲気を感じ取るために)何も持たずに、深呼吸をして自然と対峙します。風・気温・音・情景など・・・自分が感じることができるすべてに触れ、感動した思いを言葉で表現します。(この段階では、単語の羅列であったり、簡潔な文章であったりします。)
その後、その思いを表現できる構図に合わせて機材のセッティングを行います。そして撮影後、自分の感動した思いを簡潔に表現できる言葉を紡ぎます。これが作品のタイトルになります。

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(作品1:永遠に忘れたくない花言葉)
この作品は、私が本格的に星景写真を撮影し始めた頃の作品です。したがって、相当未熟な点もある作品ですが、あえて紹介したいと思います。

ここは10数基もの古墳がある地域ですが、すぐ横に桜があります。
星々の時間、古(いにしえ)の人の時間、そして撮影している私の時間。それぞれ流れが異なった時間軸が今、この一瞬に交差しています。この桜はいつから存在しているかわかりませんが、古墳に眠っている古の人も桜を愛でていたのでしょうか。
また、桜の花言葉は「精神の美しさ」ということで、日本人の気質を表しているように思います。撮影している私は、桜の花言葉がふさわしい人間であるのだろうかと自問自答しながら、永遠にこの言葉を忘れたくないという思いから「時間」をテーマに撮影しました。

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(作品2:十五夜の鵜かがり)
この作品を写真展に出したとき、ご覧いただいた方みなさんが「満月と鵜飼ですね。」とお話いただきました。実はこれ・・厳密に言うと「ひっかけ」なのです。

まず、鵜飼(長良川鵜飼)は、9月の満月は(理由は諸説ありますが)漁を行っていません。したがって、十五夜=中秋の名月が満月であれば、この作品は嘘になります。
答えは簡単、中秋の名月=必ずしも満月ではないということです。この時も撮影した翌日が満月のため休漁日でした。

1300年以上前から行われている長良川鵜飼を前景に、中秋の名月が浮かび上がる。
この幽玄な世界を言葉で表すことができなかったので、敢えて時候の言葉をタイトルに用いました。しかし、安直なタイトルのようで、実は鵜飼と月にまつわる言葉の本当の知識を推し量ることができます。

とは言え、当然のことながら、そんな蘊蓄(うんちく)は作品をご覧いただく際は必ずしも重要ではありません。知っていればより作品を深く知ることができるというだけで、この幽玄な世界観を楽しんでいただければ十分うれしいのです。

このようにタイトルの意味を熟考することで、本当の作品の意味を解することができます。一方で、自然と対峙する写真家として求められる要素の一つではないでしょうか。

著者:銭谷 智明(ぜにや ともあき)
岐阜県在住  日本星景写真協会 準会員
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