プロローグ
昨年の10月12日~15日ごろに、明るい肉眼彗星になると予報がでていた紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)。西の空で星景写真にしやすい高度のため、無限のアイデアが広がり、わくわくが止まりませんでした。
ところが、10月2日から南房総市で現場作業が4週間ほど入ってしました。出張にカメラを持ち出すことは滅多にありませんが、こんなチャンスの逃すわけにはいきませんので、最低限の機材を忍ばせて出張へ出かけました。
現場は忙しい毎日でしたが、彗星の方角と照らし合わせながらどこで撮るか日々思いを馳せていたところ、あるときふと、20年以上前に訪れた野島埼の「朝日と夕日の見えるベンチ」のことを思い出しました。今回の現場のいいところは、朝は早いけど、暗くなると危険なため明るいうちに終わるということです。
大彗星現る!
いよいよ彗星が最接近する10月13日、幸運にも快晴。そこで、夕食までのわずかな時間を狙って、野島埼へ出動しました。房総半島最南端に位置する野島埼には彗星を狙った撮影者が30人くらい集結し、そこかしこでカメラを構えていました。ただ、例のベンチを狙っている人は一人もいません。なぜなら南東向きで、普通に撮ったら西に沈む彗星に絡めることは不可能だからです。
撮る方法はただ一つ、海に向かってゴツゴツとダイナミックに延びる岩場に登るしかありません。海にギリギリまで寄ってもベンチを西方向に配置するのが精いっぱいでしたが、同一画角には入れられそうです。あとは、通称ラバーズベンチとも呼ばれるベンチにカップルが座ってくれるのを待つのみ。
程なくカップルが登ってきてベンチを温め始めました。距離が40mくらいあって、波が砕ける音が大きいため、声を出して思い通りのポーズをお願いしたところで届きません。偶然のチャンスをひたすら待ちながらもどかしい時間が過ぎていきましたが、ある瞬間、まるで指輪を渡してプロポーズをしているかのようなシーンが!
惜しむらくはまだ明るい時間帯で彗星がしょぼかったこと。程なくカップルが去り、ベンチのみの時間が続きました。これはこれでいい感じです。
でも、彗星はこれからが本番。暗くなってきたため、多くのカップルは岩場に登るのをためらっているようです。
そこへ、待望のカップルが現れました!
だけど、なかなか期待しているような位置関係になってくれません。刻々と夕食の時間が迫ってきています。
タイムリミットとあきらめかけたその時、スマホを取り出して二人で記念撮影を始めました。彗星の存在に気づいていた様子はなかったので偶然ですが、彗星をバックに記念撮影しているかのようなシーンでした。
最初のカップルはシルエットでしたが、こちらは月齢10.6の月明かりに照らされ、撮られた本人たちは誰とわからなくもありません。そこで、降りてくるのを待ち、名刺を渡して使用許可を得ました。
夕食には10分ほど遅れましたが、演出など全くないドラマに巡り合えた幸運に、気分は高揚していました。
おまけ
二日後も晴れて、宿の隣で撮影できました。
写真はiPhone14Proで撮影。3.4秒の長時間露光でしたが、手振れしないよう短時間露光を自動的に連続スタックしていると思われ、星景写真を手振れせずに撮影できるなんて凄いです!
写真に写っている部下もSonyのXperiaで挑戦していましたが、ブレブレで撮れませんでした。画質はXperiaの方が優秀で、設定も一眼レフ並みにカスタムできましたが、同じような機能があるのでしょうか?
著者:竹之内貴裕(たけのうち たかひろ)
長崎市在住 日本星景写真協会理事
「惑星地球」をテーマに、地球も一つの星であることを感じられる写真を目指して活動しています。
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