はじめに
皆さま、初めまして。石川県能登町の宇佐美と申します。私は石川県柳田星の観察館「満天星」のスタッフをしております。
この度、中川達夫さんのご紹介によりコラムを書かせていただくことになりました。能登の星空をお伝えできる機会を与えていただきありがとうございます。
奥能登の星空
日本各地に素晴らしい風景がたくさんあるように、能登半島にも四季折々の魅力的な風景が広がっています。能登半島北側の奥能登(輪島市,穴水町,能登町,珠洲市)は、起伏が激しい地形ですが、それほど高い山がないため全体的に空が開けています。周りを海で囲まれているため、日本海側でありながら水平線から昇る天の川を撮影することができます。
当館では環境省の「デジタルカメラによる夜空の明るさ調査」に参加しており、毎年夏と冬に夜空の明るさを測定しています。令和7年1月の能登町の柳田植物公園での測定では、一番暗い値で21.50等級でした。日本各地の星空で有名な地域と肩を並べられるほどの夜空の暗さです。
星の観察館「満天星」は能登町の柳田植物公園にある天文施設です。
館内にはプラネタリウムと石川県最大の60cm反射望遠鏡があります。
(2025年5月現在、地震の影響で天文台と望遠鏡は故障中です)
天候
星空を楽しむ際に一番気になるのが天気です。北陸は「一年中曇っている」というイメージがあるかもしれません。私の肌感覚では、12月から2月は晴天率が極端に低くなりますが、4月から10月は全国的に見てもそれほど晴天率が低いわけではないように感じます。
気象庁HP「石川県の地勢と気象特性」
https://www.data.jma.go.jp/kanazawa/shosai/tokusei.html
このページの日照時間のグラフで輪島と東京の値を比べてみると、4月から10月は東京と同程度の日照時間となっています。ただ、12月から2月は冬型の天候になり、日照時間が極端に短くなります。この冬の天候の印象が強いため、「北陸は曇りの日が多い」というイメージに繋がっているのかもしれません。
<月虹(ムーンボウ)>
秋の時雨の時期には、月明かりによる虹を撮影できるチャンスがあります。
能登町では2020年から毎年撮影できています。
漁火
毎週月曜日と金曜日の夜は、漁火がほとんどなく、星空を撮影するのにおススメです。
能登では漁業が盛んです。イカ釣り漁が活発な時期には、明るい漁火が夜空を照らします。6月から7月前半の梅雨時期には漁火が最も明るく、天の川が見えなくなることもあります。
漁火を気にする上で役立つかもしれないのが、石川県漁業協同組合の「休開市日カレンダー」です。
http://www.ikgyoren.jf-net.ne.jp/sanchishikyou.html
このカレンダーによると、基本的に毎週火曜日と土曜日は漁業市場が休みとなります。そのため、その前日の月曜日と金曜日の夜には漁火が少なめの傾向があります。漁火を気にせず星空を撮影するのは、月・金曜日がいいかもしれません。
※正確な休開市日はカレンダーをご覧ください。また、休市日の前日は漁火がほぼないように感じていますが、絶対に漁火がないとは保証できませんのでご了承ください。
<漁火光柱>
漁火が出ている時は、漁火光柱を撮影できることもあります。
奥能登の星景写真
<真脇遺跡(能登町)>
縄文時代にあったとされる、円柱に並んだ柱「環状木柱列」が再現されています。漫画「君は放課後インソムニア」の舞台になっています。
<恋路海岸(能登町)>
海岸には鳥居があり、潮が引くと近くまで渡ることができます。午後10時頃までライトアップされています。
<見附島(珠洲市) 地震後>
海岸には高さ28mの巨岩がそびえ立っています。海岸から東の方向に見附島が見えるため、昇ってくる天の川や冬の星座たちと一緒に撮影できます。地震により崩れてしまいましたが、今でも存在感は薄れていません。地震前の写真に写っている桜の木は切られてしまいました。
<禄剛埼灯台(珠洲市)>
能登半島最先端にある灯台です。北に向けて撮影すると灯台の光は気になりません。
<低緯度オーロラ(珠洲市)>
2024年5月11日の低緯度オーロラです。場所は珠洲市真浦町の海岸です。この場所は、地震前は海中でしたが、地震によって隆起した岩場です。
<ボラ待ちやぐら(穴水町)>
穴水町の海にあるボラ漁のためのやぐらです。パーシヴァル・ローウェルは1889年に同町を訪れ、「怪鳥ロックの巣」と表現しました。場所は根木ポケットパークです。
<白米千枚田(輪島市)>
地すべりが多かった土地を活用して作られた棚田です。奥能登のシンボルともいえる場所です。写真には金井宣茂宇宙飛行士が滞在していた国際宇宙ステーションの軌跡が写っています。
おわりに
皆さまもご存知のとおり、令和6年能登半島地震により、能登半島をはじめ北陸や新潟県など広い地域が被害を受けました。当館がある能登町も最大震度6弱~6強と町全体で甚大な被害を受けました。それから1年が経ち、復興はこれからが本番なものの、少しずつ落ち着きを取り戻してきています。多くの方にご支援やご心配をいただき、誠に感謝いたします。
「今能登に行っても大丈夫でしょうか?」という声をよく耳にしますが、現在は「ぜひ能登へ遊びに来てください!」というムードが広がっています。もし機会がございましたら、ぜひ能登を訪れ、美しい星空をお楽しみいただければ幸いです。
プロフィール
宇佐美拓也(うさみ たくや)
石川県能登町在住 新潟県佐渡島出身
X(満天星) https://x.com/man_ten_bo_shi
Instagram(満天星) https://www.instagram.com/mantenboshi_noto/
過去のコラムでは、金沢星の会の岩瀬さんと立岩さんが能登の星空
・2023年2月号「能登の星空」 立岩広人
URL: http://aspj.jp/post-5065/
・2023年3月号「星景写真のはじまり」 岩瀬光博
URL: http://aspj.jp/post-5095/